ワニとイルカ

ワニは風呂の中で考えた。 「イルカとはもう会わないようにしよう」 風呂専用の枕にもたれかかり、大きく鼻息をならす。 備え付けのラックからミネラルウォーターを手に取り、のどを鳴らして飲んだ。 水面には窓から差し込む日が、芝草のように煌めいている。 気がつけばワニの目には涙が浮かんでいた。 ふと、誰かに呼ばれた気がして、顔を湯の中に潜り込ませた。 泣いてなんかいないんだから。

aoto

13年前

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イルカは椅子に腰かけながら考えた。 「ワニはどうして僕が嫌いなのかな」 背凭れにもたれかかりながら、イルカはそっと目を閉じる。 あの子はいつも僕が嫌いだと言う。 目が合えばすぐにそらして、声をかけたら、怒ったように僕を見てそしてそっぽをむく。 「ワニ、」 そっと声に出してワニを呼んでみる。 何だかワニが泣いている気がする。 ああ、そういえば僕は、ワニが笑った所を見たことがないな。

mmww

13年前

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湯船の表面から目だけ覗かせてみる。 涙が邪魔臭い。 思い切ってザブンと頭までお湯に浸かってしまうと、何だか知らない世界にいるみたいだ。見える世界も、聴こえる音も。 ワニは涙を湯船に洗い流してもらい、ぶくぶくと独り言を呟く。 「いつもオイラばかり泣かされててズルいや」 お湯を飲んでしまうのも気にせずお湯の中に叫んだ。 「イルカのバカぁぁぁっっっ」 ザブン! 随分スッキリした。

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「イルカは、みんなに好かれているよなあ…」ワニはまた、イルカのことを考え始めた。「おれは、みんなに嫌われてるよなあ」 今日ワニは、イルカに声をかけられた事を思い出した。 「おおい、こっちで一緒に遊ぼうよ」 周りにいた魚達が、おれを睨んだような気がした。おれには、ワニなんか仲間には入れたくない様子に見えた。 おれは、淋しさを隠すように怒った顔でそっぽを向き、早口で言った。 「イルカとは遊べないな」

jude

13年前

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孤独、孤独、孤独。 寂しい気持ちを表すのに、この二文字を何度使っても表すことができない。 イルカみたいに、お利口さんにはなれないや。それだけが理由じゃないだろうけど、僕は仲間には入れない。 いや、入らない。 本当は気づいてる。 イルカたちが問題じゃない、て。僕が僕であることを、受け入れられてないんだ。彼らを見てると、それに気づかされる。 だから、また逃げた。 決めたんだ。会わない、もうね。

13年前

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イルカはベッドの中で思い出していた。 まだ自分が小さくって、よくワニと二人で遊んだ頃のことを。 「楽しかったなぁ〜」 二人で知らない水辺に探検に出かけたとき、そこで大きなサメにいじめられたことがあったっけ。でも、ワニが体を張って助けてくれたんだ。 あの頃は二人でよく笑っていたように思う。 思い出せば思い出すほどイルカは不思議でならない。 「なんでワニは僕を避けるようになったんだろう?」

黒葉月

13年前

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イルカは考えた。 自分に何か落ち度は無かったか? 自分が何か気に障るような事でもしたか? ベッドの中で考えた。 しかしいくら考えても答えは出てこない。 いつから? 何がきっかけで? それだけが頭の中をめまぐるしく回っている。 友達と遊んでいて楽しい。 ワニとも一緒に遊びたい。 何がいけないんだろうか? どうして一緒に遊べない? 僕? ワニ? 友達? 僕は頭の中の整理がつかないまま眠った。

ふぇると

13年前

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今日はワニに会いにいこう。 イルカは朝起きて、すぐに決めた。 「イルカとは遊べないな」 ワニの一言が、イルカのつるりとした胸に棘みたいにひっかかっている。ワニはこういう時、いつもかなしそうな顔をする。今にも泣き出しそうな顔。 ワニが自分をどう思っているか、直接聞いてみよう。本当に嫌われていたらと思うと怖いけれど、このまんまよりずっといい。 イルカはワニの家の扉を叩いた。 「ワニ、いるかな?」

lalalacco

13年前

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「いない」 「…もし僕がなにかワニにとって悪いことをしてたなら謝るよ、ごめん」 するとワニが大きな口を開けポカン、とした。と思うとすぐに我に返り扉のむこうに向かって怒り始めた。 「そ、そうだよ!イルカが悪い!おれじゃないやつらと仲良さげに遊んで!」 イルカはそんなワニの様子をみて思った。 ああ…わかった。なんだ、この話に誰が悪いなんてのはないじゃないか。 嫉妬をしてるワニがやけに微笑ましくなった。

se-shiro

13年前

- 完 -