ワニとイルカ
ワニは風呂の中で考えた。
「イルカとはもう会わないようにしよう」
風呂専用の枕にもたれかかり、大きく鼻息をならす。
備え付けのラックからミネラルウォーターを手に取り、のどを鳴らして飲んだ。
水面には窓から差し込む日が、芝草のように煌めいている。
気がつけばワニの目には涙が浮かんでいた。
ふと、誰かに呼ばれた気がして、顔を湯の中に潜り込ませた。
泣いてなんかいないんだから。
- 1 -
イルカは椅子に腰かけながら考えた。
「ワニはどうして僕が嫌いなのかな」
背凭れにもたれかかりながら、イルカはそっと目を閉じる。
あの子はいつも僕が嫌いだと言う。
目が合えばすぐにそらして、声をかけたら、怒ったように僕を見てそしてそっぽをむく。
「ワニ、」
そっと声に出してワニを呼んでみる。
何だかワニが泣いている気がする。
ああ、そういえば僕は、ワニが笑った所を見たことがないな。
- 2 -
湯船の表面から目だけ覗かせてみる。
涙が邪魔臭い。
思い切ってザブンと頭までお湯に浸かってしまうと、何だか知らない世界にいるみたいだ。見える世界も、聴こえる音も。
ワニは涙を湯船に洗い流してもらい、ぶくぶくと独り言を呟く。
「いつもオイラばかり泣かされててズルいや」
お湯を飲んでしまうのも気にせずお湯の中に叫んだ。
「イルカのバカぁぁぁっっっ」
ザブン!
随分スッキリした。
- 3 -
「イルカは、みんなに好かれているよなあ…」ワニはまた、イルカのことを考え始めた。「おれは、みんなに嫌われてるよなあ」
今日ワニは、イルカに声をかけられた事を思い出した。
「おおい、こっちで一緒に遊ぼうよ」
周りにいた魚達が、おれを睨んだような気がした。おれには、ワニなんか仲間には入れたくない様子に見えた。
おれは、淋しさを隠すように怒った顔でそっぽを向き、早口で言った。
「イルカとは遊べないな」
- 4 -
孤独、孤独、孤独。
寂しい気持ちを表すのに、この二文字を何度使っても表すことができない。
イルカみたいに、お利口さんにはなれないや。それだけが理由じゃないだろうけど、僕は仲間には入れない。
いや、入らない。
本当は気づいてる。
イルカたちが問題じゃない、て。僕が僕であることを、受け入れられてないんだ。彼らを見てると、それに気づかされる。
だから、また逃げた。
決めたんだ。会わない、もうね。
- 5 -
イルカはベッドの中で思い出していた。
まだ自分が小さくって、よくワニと二人で遊んだ頃のことを。
「楽しかったなぁ〜」
二人で知らない水辺に探検に出かけたとき、そこで大きなサメにいじめられたことがあったっけ。でも、ワニが体を張って助けてくれたんだ。
あの頃は二人でよく笑っていたように思う。
思い出せば思い出すほどイルカは不思議でならない。
「なんでワニは僕を避けるようになったんだろう?」
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イルカは考えた。
自分に何か落ち度は無かったか?
自分が何か気に障るような事でもしたか?
ベッドの中で考えた。
しかしいくら考えても答えは出てこない。
いつから?
何がきっかけで?
それだけが頭の中をめまぐるしく回っている。
友達と遊んでいて楽しい。
ワニとも一緒に遊びたい。
何がいけないんだろうか?
どうして一緒に遊べない?
僕?
ワニ?
友達?
僕は頭の中の整理がつかないまま眠った。
- 7 -
今日はワニに会いにいこう。
イルカは朝起きて、すぐに決めた。
「イルカとは遊べないな」
ワニの一言が、イルカのつるりとした胸に棘みたいにひっかかっている。ワニはこういう時、いつもかなしそうな顔をする。今にも泣き出しそうな顔。
ワニが自分をどう思っているか、直接聞いてみよう。本当に嫌われていたらと思うと怖いけれど、このまんまよりずっといい。
イルカはワニの家の扉を叩いた。
「ワニ、いるかな?」
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「いない」
「…もし僕がなにかワニにとって悪いことをしてたなら謝るよ、ごめん」
するとワニが大きな口を開けポカン、とした。と思うとすぐに我に返り扉のむこうに向かって怒り始めた。
「そ、そうだよ!イルカが悪い!おれじゃないやつらと仲良さげに遊んで!」
イルカはそんなワニの様子をみて思った。
ああ…わかった。なんだ、この話に誰が悪いなんてのはないじゃないか。
嫉妬をしてるワニがやけに微笑ましくなった。
- 完 -
作品情報
ワニとイルカ
#525
- リレー期間
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5ヶ月