あめにふまれて

水溜りに雨粒が溺れ、また見飽きた風景が私を纏う。

何にも従わず、私は濡れる。
否応なしにまずは、服が透ける。

雨粒は天から私に足踏みし、くたばれくたばれと云う。

日没春
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でも、私はくだばってやらない。くたばるものか。

神に私は嫌われているらしい。生まれたときからろくな扱いを受けたことがなかった。

実母には殺されかけ、引き取られた先の家でも虐待を受けた。唯一味方だった幼馴染はクラスの女に絆され、私を醜いと嘲笑った。

痣が絶えない身体は、幼馴染が罵ったように醜い。虐待のせいで曲がった右足が更に私を怪物のように見せていた。

雨が、くたばれくたばれと私を叩く。

Ringa
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神に嫌われても、醜くても、生きてやる。
雨に叩かれても痛くない。痛覚なんかとっくに麻痺してる。かなしいってわからなくなってる。
私の心は曲がった足のように捻くれていき、見た目だけじゃなく心から怪物に成ったのだから、雨ごときに屈したりしない。

「お嬢ちゃん、自分で怪物を呼んだらだめじゃて」

公園を通り越し、地下通路に降りていくと浮浪者のおばさんが近寄ってきた。

「お嬢ちゃんは怪物になれんよ」

- 3 -

黙ったまま怪物の目でおばさんを睨みつけた。私はもう怪物なのだから傷つけられても平気だった。
同じ雨が二人を濡らしてゆく。

「……あんたには分からない」
「分かるさ。どうあがいたって、お嬢ちゃんは怪物にはなれん」
二人の影がまるで本当の怪物のように伸びていた。
私は醜い足を引きずりおばさんに背を向けた。
「本当の本当は、怪物にはなりたくないって、心の中で叫んどる」
おばさんは私の背中に叫んだ。

駒子
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見透かしたようなその言葉が腹立たしかった。

叫んでいたとして、それが何だというのだ。叫んだって、何も変わらない。たとえ誰かがその声を聞いたって、何もできやしない。

私は踵を返した。くたばれと叩きつける雨は、この世の全てが敵だと散々私に教えた。だから私は下らないお節介や見せ掛けの優しさなんかにも動じたりはしない。

おばさんは泣きそうな目でこちらを見ている。私は彼女に近づき、その頬を張った。

misato
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なぜか泣くのは私の方だった。
「そりゃ…私だって、怪物にはなりたくなかった…」
勝手に声がかすれていく。
「でも、お前たちが私を怪物に変えたんだ! 何度も何度も雨粒で叩き続けて‼︎」
その雨が私の涙を隠しているのだから、何とも皮肉なことだ。

「それは大変だったね…なんてことは言わん。同情されるのは嫌いじゃろうしな」
おばさんは手の甲で顔を拭った。
「ただ、溜めているものは吐き出した方がいい」

亀井二郎
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今更何を吐き出せと言うのか。溜まったものは身体の一部になっている。あらゆる感情をこの身体に打ち付けられ、それらを飲み込み痣以上に醜い私になったのだから。
「吐き出し方がわからん間は泣けばええ。涙は身体ん中にあるもんを出してくれる。涙が出なくなったら嫌が応にも吐き出したくなる」
訳知り顔の大人が嫌いだ。嫌いだった。
おばさんの手の甲の痣が、私の中の怪物を平常心にさせた。

_靉_
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傘もない。生身の身体に土砂降りの雨。肌を刺す。
「あんたも怪物なの?」
おばさんを鋭い二重の目で睨みつける。

おばさんが黙って袖を捲ると無数の痣が現れた。
大きな縫った跡がひときわ目を引いた。

「さあね。なりかけたことはあるかもしれないね。」

さっき張った方が腫れている。私は自分が打たれたみたいに泣いた。痛い、痛い、痛い、麻痺していた痛覚が解けるようだった。
同じ雨が2人を濡らす。

みみぃ
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地下通路から延びる二つの影が、雨に嬲られゆらゆら揺らぐ。雨を嫌って走る子らが、滲んだ視界に怪物を見て甲高い悲鳴をあげた。からかい合う様にして家路を急ぐ。地下通路の二人はわんわん吠えた。雨もうんざりする程に。

ひあがれ、ひあがれ!!

私が叫ぶ。

吠え疲れて眠る頃、重い雲もこの景色にうんざりして星空を解放した。なり損ないの怪物どもは、その輝きを知らずに眠る。

美しい、人の子の寝顔をしていた。

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- 完 -

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