王妃様のプロジェクト

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」 『それは勿論、お妃様です』 「そう、私が一番美しい…なのに…どーしていつも主役は姫なのよ!私だって主役やりたい!」 べちんと鏡を叩くと、いたっ!と悲鳴が上がる。 『仕方ないですよ、そういう物語だし』 「…どうせまた、焼けた鉄の靴をはかされるか、雷に撃たれて死ぬんだわ…」 『ほら、美人薄命って言うじゃないですか。つまり美しい!』 「そんなの嫌よぉぉおおお!!」

葵なお

11年前

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『ならば中身も美しくなりましょう』 わんわん泣きわめく妃に鏡はそう言った。 はた、と妃は泣くのを止めて、 「中身?」 問いかける。 『ぶっちゃけ妃様は内面ブスです』 「叩き割るわよ!?」 『ほらそこで暴言を吐く!だからダメなんですよ妃様は!』 うぐ、と言葉に詰まった妃、対照的に心なしか鏡面をツヤツヤキラキラさせて鏡は、 『女王様徹底真人間化プロジェクト、ですね!』 どやぁ!と宣言したのであった。

フタシロ

11年前

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「女王様徹底真人間化プロジェクトぉ?」 『はい、そうです!お妃様は見た目だけならどんなお姫様にも勝てます!だけど残念なほどの性格の悪さ。それをこの女王様徹底真人間化プロジェクト、略してJTMPで叩き直そう!と言うわけです』 「そう。で、どうするの?私の性格はそう簡単に変わらないわよ。きれいなジ●イアンみたいに私をきこりの泉に放り込むわけ?」 『いいえ、違います。まずはJTMPその一です!』

わかば

11年前

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「で…どうして私自らが掃除洗濯料理をしなければならないのかしらねぇ?」 『JTMPその一、忍耐力を身につける!これがその特訓です』 妃は手にしていた箒をガシャンと床に叩きつけた。 「これがどうして忍耐力に繋がるのよ!?第一、お妃自らが家事?馬鹿げてるわ!」 『某灰かぶりから王妃様になった方がそうされていました!あの方の忍耐力は素晴らしい!さぁ、王妃様!』 鬼気迫る鏡に、さすがの妃も逆らえなかった。

star*gazer

11年前

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「ぐ、ぐううぅぅ•••」 『•••これは想像以上の出来の悪さですね』 「う、うるさいわね!!だったら鏡のあんたもやってみればいいじゃない!?」 『たとえ私がやってみようが、この短時間で一部屋を丸ごとゴミ箱に変えるほどの実力は持ち合わせていません。ああ、ここにあった家具に罪はないのに•••なむなむ』 「•••あんた、そろそろ本当に覚悟しなさいよ」 『王妃様こそ。次はお洗濯の時間です』

11年前

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「ぐ、ぐううぅぅ・・・」 『…』 「な、なにか言いなさいよ!! 沈黙されると冗談じゃすまされない、みたいじゃない! 気まずいわ!」 『すいません』 「あ、謝らないで!? いつものように罵るあんたはどこ? そんなに酷いの」 『王妃様。何事も挑戦あるのみですよ☆ 私は応援してます』 「鏡の如き分際で私を励ますなんて!」 『例え王妃様でも料理なら大丈夫。王を射止めた腕前…

aoto

11年前

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……って、確か周囲が言ってたんですよね?』 「え?言ってたわよ?」 『…あの〜、その目の前にある黒くてコポコポ言っている液体は何でしょうか?』 「見れば解るでしょ?カレーよ、カレー」 『それ、王は食されたんです…か?』 「ええ」 『…その後、王は?』 「ん〜、その後すぐに部屋に閉じこもって2,3日出て来なかったけど」 『…それって、違う意味で王を射止めたんじゃ…』 「?何が?」

hyper

11年前

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『しかし、王妃主人公になると言ったって貴方はこれ以上何を望むのですか?世界一の城に世界一の王と暮らし、世界一の美しさを保つ貴方にこれ以上求めるものがあるとは思えません』 「それよ。私は14歳でここに嫁いでから、十年も何不自由なく暮らしてきたわ。だけど、人には乗り越えるべき試練と、得るべき報酬が無いとつまらないの。目標が無いと生きてる意味が無いのよ」 『生きている実感ということですか。難問です』

terry

11年前

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「お義母様はそんな事を考えていたのね」 月日が立ち、白雪姫は鏡の話を聞いていた。 『彼女はその後特訓を続け、完璧な家事をこなせる様になりました。すぐ代役の女に殺され王妃の座を乗っ取られましたが…』 決められた筋は変えられませんでした、と鏡は呟いた。 「でもお義母様の特訓をずっと見てきたから、小人達のお役にも立てたわ」 『…初めて美味しいカレーが作れた日の、あの人の満足げなドヤ顔は忘れられません』

Piano

11年前

- 完 -