五月の月曜日の朝。 ぴっかぴかの大学一年生、地元から離れて一人暮らし。幸い友達にも恵まれ、平凡ながら楽しい大学生活を送っていた。 送っていた…はずだった。 「ううん…おはよ、愛子」 毛布からはみ出した見覚えの無い顔。ご丁寧に私の名前を呼びながら挨拶をした。そんな、乙女ゲーじゃないんだから…! 我ながら冷静だと思う。心臓は悲鳴をあげてるけど、まじまじとその人を見つめた。
- 1 -
「えっと…お、おはよぉ~」 彼女が何者か分からないので、とりあえず明るく振る舞って、保険をかけておく。 ひきつった笑顔の私をみて、彼女が冷たい目でボソリと言う。 「キャラ、変わってね?」 そ、そうなの?私はあんたの前で何キャラ演じてたの?! トイレ~。と言いながら彼女は毛布から這い出た。全裸だった。同性ながら ええケツしてまんなぁ~ と言いたくなる見事なスタイル。 私も当然全裸だった
- 2 -
…はて?美容の為に全裸で寝るという習慣は私には無かったハズだが。 そう思いつつ周りを見回す。どうも様子がおかしい。 簡単に言ってしまえば、お姫様が寝ているような寝室の風景だった。 天井には、ご丁寧に星空と星座の絵が描かれている。 「(いけません愛美さま!そのようなはした無い格好で!)」 廊下から少し年配の女の人の声が聞こえた。 「(えー、いいじゃん別にー。)」 さっきの女の子の声が続く。
- 3 -
あたし、あいつとヤッちゃった ……の? いやいや、そんな分けないでしょ、あたし、レズじゃ、ないよね?ね?自分違うよね?
- 4 -
体に聞いてもちっともわからない。それらしい痕跡はないが、証明にはならない。 とりあえず、大学に行きたい。春から一度も休んでない、今のところとても楽しい大学へ。 日常を取り戻すためにはそれしかない。しかし彼女みたいに全裸のままベッドを出る気になれず、毛布を手繰り寄せて辺りに目をやる。 ええと、服は? 逡巡していると、愛美が帰ってきた。 「ばーやがすぐに着替えと朝ごはん持ってくるって」
- 5 -
今更ながら、ここは自分の部屋ではないと思わされた。 階段を上がってくる音がする。 どうやらここは愛美の家らしい。 ばーやと呼ばれたその老婆は、ハムエッグとトーストという、贅沢な朝食を持ってきた。 「さあさあ、愛子さん。お食べなさい」 きわめて愛想がいい。 驚きながらも悪い気はしない。 「あの、私はなんでここに…?」 「なにも憶えてないの?」 愛美が言う。 「酔っ払ってうちにきたのよ。しかも裸で」
- 6 -
裸で!? じゃあ私は何処か別の場所で裸になったあと、そのまま表を闊歩して、ここまでやってきたというの? 青ざめた顔で口をパクパクさせてる私を見て、愛美は屈託なくけたけた笑う。 「真夜中に突然裸で『たのもー!』とか言って乗り込んできてさ、私の顔を見るなり『決闘だ!』って。面白かったから私も脱いで決闘したよ、相撲で。いい戦いだった」 そんな記憶はまるっきりない。 あ、でも少し二の腕が筋肉痛かも…。
- 7 -
とりあえず起こったことを冷静に考える。 私は、裸でこの辺りを歩き回り、知らない人の家に上がり込み、相撲をとった。 「ああ、死にたい」 徐々に蘇る記憶。私は顔を覆った。 昨日は新入生コンパだったんだっけ? 記憶は雲に包まれたようにモヤモヤとしてはっきりしなかった。 とりあえず、見ず知らずの人の家に上がり込み、介抱され、相撲をとったという事実は何とかせねば。てかこの人お嬢様かよ。
- 8 -
ああ。こんなこと友達に知られたら。いや絶対にもう知られてる。ああ。どうしよ。死にたい。ハムうまい。 「うまっ」 「イケるでしょ」 「やばい。意味わかんないくらいうまい」 「デザートもあるから」 デザートという響きにさらにテンションが跳ね上がりキラキラの笑顔で朝食を頬張る。 「いやぁ~しかし第1パラグラフ書いたコはこんな話になると思ってないよね」 「だよね。だからこのアプリ面白い」 「レタスうまっ」
- 完 -