ある作曲家が死んだ、我々は自殺と断定し事件は解決するかにみえたが… 『殺害したのは自分だと』 自首してきたのだ、それも2人… 今から取調べを始めるが、どうも奇妙な事件だ… 何が奇妙かってこの2人の女性容疑者は、お互い面識は無く… さらに驚く事に殺された作曲家とも面識が無いと言うのだ… では、何故自首して来たのか? 動機は? この"真行寺 毅彦"が相棒の警部補 酒田と奇妙な事件を解き明かす…
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容疑者、岡 藍子(34) 地味な服装に身を包み、少々俯き加減で尋問に答える。 「本当に貴方は被害者を殺害したんですね?」 「はい。そうです。間違いありません」 「実を言うと、貴方と同じ様な供述をしている人がいるんですが…」 それを聞くと岡は顔を上げた。年齢よりも幾分か老けて見えた。 「その人の言っている事は嘘です。私があの人を殺したんです」 「何の面識も無い人を?」 「そうです」 「何故?」
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「あの人は変わってしまった。作る曲に色が見えなくなった。このままではあの人は過去の人になってしまう。忘れさられないためにはいまのうちに、そう思ったのです」 「そんなことで?」と酒田は言った。 「旬を過ぎたら誰もあの人に作曲を頼まなくなります。いい時期に殺されたら名前は残ります。過去にもファンに殺されたミュージシャンいましたよね」 とりあえずもう一人の容疑者、西村愛美(26)の話も聞いてみよう。
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容疑者、西村愛美(26) こちらは打って変わって、派手な化粧に、派手な服装。タバコの香りが微かにする。「頼まれたんだよ殺せってな」忙しなく指を動かしながら西村は言う。「誰に?」酒田の抑揚の無い声は、取調室に嫌に響く。「本人だよ」「面識が無いと言「もういいだろ!アタシが殺したんだ!アタシが犯人なんだよ!」西村は啖呵を切ったように叫ぶ。「今の時代、他人に物を頼む何て造作も無いさ」どうも動機が足りない。
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酒田が害者の繋がりを洗い出した。 「まず、岡ですが、害者にアシとして雇われていたこともあるようで」 「いた、ということは今は違うのか」 「はい。どうもそこに一悶着あったようで、害者の事務所も公的な見解として岡という人物は知らない、とのことでした」 「熱烈なファンだというなら、自分自身に嘘をつかなくてもいいだろうに」 「尚、西村は事件当日、近くに会社員の証人がいて、供述の裏がとれました」
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「裏、っていうと?」 「西村はその時間、会社員と一緒に犯行現場のビルに行ったそうです」 「じゃあ西村が殺った、ってことか?」 「その可能性はあります。ただ…」 「ただ、何だ?」 「西村は犯行現場の反対側の部屋に入ったそうなんです。その部屋から現場につながる扉はありませんし、足場もないので外を回って行くことも不可能です」 「その反対側の部屋には何がある?」 「殺された作曲家の事務所です」
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「作曲家の事務所、そりゃもうすごかったですよ」 そう。部屋が、何というか酷い有様なのだ。 散らかったのはスコア。色々な曲のものがバラバラに床に落ちていた。元々黒かった部屋の床が白くなっていた。そして壁、それも酷い有様だった。 「引っ掻いたような跡、殴ったようなへこみ、まるで争ったかのような跡ですよ」 酒田はそう言うと、大きくため息をついた。
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「それは、西村が?」 「そうも取れますね、 確かにあの女、派手で男を殴るくらいなら平気、なんて感じですよね」 「しかし、なぜ西村が部屋をあそこまで酷い 有様にするのだ? 作曲家が目当てなら、部屋をめちゃくちゃにする理由は見つからない。」 「確かに…」 酒田は考えこんでいる。 「なら、本人がしたのか、いやしかし…」 すると酒田が呟く。 「そういえば、あの作曲家、最近曲調が変わったと、それと関係が?」
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二人の前に封筒を置く。 「岡さんが被害者を事務所で絞殺しようとした時には完成してなかった、被害者の最期の曲です。貴方と揉み合って気絶した彼は貴方が逃た後にこれを完成させた」 青ざめた西原は岡を睨んで頷く。 「…人が倒れる音に気付いて行ったら、移動したその人がそれを書きながら岡さんの話や自殺の理由を語って…アタシ彼が首を吊るところを黙って見てたんだよ!『死なせてくれ』なんて…止められたのにね」
- 完 -