「なんであんなこと言ったのさ。ぼくは今怒ってるよ」 「noveのこと?」 「他に何があるの。にわかにやめるとか言っておいて」 「やめるよ」 「嘘だ」 「本当」 「...本気? 関わってくれた人のことは?」 「うん。大切。感謝しきれないほど救われた」 「じゃあ」 「でもそこを拠り所にしちゃダメ」 「いいじゃんそれでも。拠り所がないとしんどい」 「ううん、拠り所を自分の居場所にしてるほうがしんどい」
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「拠り所があるだけで、安心するんだ」 「ならまだ居てもいいじゃん」 「優しさに甘えてしまうんだよ」 「でも、でも拠り所て自分だけじゃなくてみんながいるから拠り所なんだよ」 「やめてよ、もう決めたんだ」 「今ならまだ…」 「いいんだよ。しんどいとかじゃなくてさ」 「みんな待っているはず」 「男が決めたんだ、もう揺らがないよ。揺らぐと辛い」 「いいじゃない辛いから、拠り所があるんだ」 「それが辛い…」
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「それは、つまり、依存しすぎているなって感じているの?」 「そういうことじゃないけど」 「そういう風にしか聞こえないよ。居場所がなくなってしまうと、後にはもう何もない。だから、怖いから、一人になるのがとんでもなく恐ろしいから」 「違うんだって!」 「じゃあ、どう違うのか説明してよ」 「それは」 「ほら、やっぱり君は何も変わらない」
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「何もって何?」 「自分で解ってないのさ、自分の事を」 「自分が一番理解してる」 「そう思ってるだけ。若しくはそう思い込みたいだけ」 「君に何が解るっていうんだ」 「解るよ。恐らく君より君の周りの人間の方がよっぽど」 「そんなこと…!」 「でも君は頭の良い人間だから解ってて解らないフリをして仮面を被ってる。そりゃもう何枚も何枚も被って被りまくって…そして何が何だか解らないところに立ってたりする」
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「……じゃあ、君は自分が今どこに立っているのか解ってるのか」 「解ってないよ。解る訳ない。だけど、解ってないことを解ってはいる」 「何だそれ」 「きっと君はもう答えを知ってるくせに」 「どういう意味だよ」 「そのままの意味」 「だから、そのままって一体どういうことだよ」 「noveのこと、いや自分の居場所のこと。本当はどうしたいのか、道は見えているはず。ただ、その場に蹲って進めないままでいるんだ」
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「なんでそこまで引き止めたがるの」 「簡単だよ、仲間が去ったら悲しい。それに君の決意には疑問しか湧かない」 「疑問って」 「何も拠り所を棄てる必要なんてないじゃないか」 「棄てる訳じゃない」 「戻るつもりもないんだろ」 「それはそうだけど」 「君はそれでいいかもしれない。でも残された僕達は納得できない。こんな茶番を、君は何回繰り返すつもりなのさ。そんなことじゃあ、本当の意味で自立なんてできないよ」
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「うるさいな、馬鹿にしてるんだろう」 「そんなことない。君のことは尊敬しているんだ。君の物語は素敵だから」 「ここを拠り所にしてしまうと、もう本当の物語は書けないよ。だからnoveはやめなくちゃいけない」 「それでもみんながいる限り、物語は回っていく。一人で物語を書くことが自立じゃないだろう」 「それはそうだけど」 「君がやめたって、君の物語はここに残り続ける。やめる意味なんてどこにもないんだよ」
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「…………」 「………………」 「新しく、やり直したいのかもしれない」 「新しく? 一から登録した頃の気分で、また書き続ければいいじゃない!」 「出来ないんだよ!」 「……なんで?」 「分からない…………」 「…………」 「………………」 「きっと、……」 「ぇ?」 「きっと。noveをやめても、別な場所でも同じように悩むときが来る……」 「わ、分かったような口をきくな!」
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「分かったような…か。確かに僕は君じゃないからね」 「ほらm」 「OK。僕らの事は気にしないで思う通りにしたらいい。でも君は戻ってくる」 「だから!」 「書きたくなるよ。書きたくなるんだ」 「そんなこと」 「分かるよ、僕がそうだったから」 「…え?」 「そうだったの!削除して後悔したの」 「そうだったの…」 「だからさよならは言わないしできない」 「うん」 「またね!」 彼の紡ぐお話を楽しみに
- 完 -