あんこの美味しい作り方あるいは英雄の物語

彼は漆黒の外套をはためかせ、鮮血に染められたような紅色の衣を身に纏っていた。 民は、彼を英雄と礼賛していた。 英雄と呼ぶにはあまりにも脆弱なその体は、時には泥土に身を腐らせ、濁流に身を溺れさせた。 しかし、彼は挫けなかった。愛と勇気などは戯言と知りながら、彼はそれに帰依することを辞めなかった。自らの血肉を与えていた彼を、いつしか、民はこう呼ぶようになった。 ーーアンパンマン・・・と。

kituneko

13年前

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ある日の哨戒任務の最中、彼は一人の少年に目を落とした。 汚泥を連想させる薄茶色の外皮。切れ長の口腔。たった四本だけの不気味な歯牙。 少年ーーカバオの目は虚ろで、何者をも写していなかった。涙さえも枯れ果て只々虚空を見つめるのみ。 アンパンマンはその傍らに降り立ち、光をたたえぬ瞳を覗き込み、問う。何があったのか、と。 少年は、たった一つシンプルな事象の結果でしかないと言った。 ーー奴が来た

やーやー

13年前

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独自に開発した戦闘機を操り、ありとあらゆる生物兵器の無差別な使用によって罪無き民を恐怖に陥れる。私利私欲を貪る為だけに襲撃を繰り返し、いつ姿を現すかは予見出来ない。 諸悪の根源、暗黒の存在。鋭く尖った歯列に黒光りする二本の角を持つ異形の姿。 --バイキンマン。 哀れな少年がその忌まわしき名を口にする前に、英雄は少年の肩を叩いて飛び立った。 今こそ行かねばならぬ時がきたのだ。そう、何処までも。

lalalacco

13年前

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ふっはっはっ。来たなアンパンマン。今日こそ貴様の息の根を止めてやろう。 貴様…懲りぬ奴だ。刃向かうのであれば致し方ない。シャキン…。シュバッ。この妖刀、邪夢爺で天誅を下… 待てぃ!突如現れた蒼い衣裳に身を包む巫女、バタ子。 待てアンパンマン。我が酵母班の研究報告を聞くのだ。奴の属性は菌。そしてお前の生成の仕方は…イースト菌…つまり…お前らは…! !! なん…だと…?奴と…俺が…兄弟…?

13年前

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「だ、騙されないぞ!」 英雄は口惜しんで、唾を吐く。 それでは、今の今まで戦いに明け暮れた日々は何だったというのだろうか。愛と勇気だけを味方に、正義を貫く。 その過酷ながらも、己の信念に恥じない生き方。 「菌だと一括りにするのはお前ら人間の勝手な概念だ!」 兄弟を殺戮するのは信義にもとる。 平和を願う、英雄らしかぬ行為。 認めたくはなかった。己の正義が崩れる瞬間を。

aoto

13年前

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英雄はガクンと膝から崩れ落ちて拳を地面に叩きつけた。 しかしそこは奇しくも水たまり。自らの拳が水を跳ね上げ顔面を濡らした! 「か、顔が濡れて・・・力が出ない・・・」 「いけない!ジャムおじさんに知らせなきゃ!待ってて」 食糧を無償で民に与えるアンパンマンを始めとした八百万の英雄達を束ねる存在であり、巫女のバタコが使えるパン神社の神主、それを民は親しみと尊敬を込めて呼ぶのだ、ジャムおじさん、と。

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「大変でございます、ジャム叔父様!」 そこには、アンパンマンの老け込んだ顔に見えるほど、瓜二つのジャムがいた。 「八百万の神達共に…うむ、バタコか…。儂のターンじゃな」 言うや、ジャムは古に伝わる、白い粉を握り… 「案班万豪で出陣じゃ…用意なさい」 「はい!」 「…とうとうこれを使う時が来てしまうのか…。これが…運命と言うならば…神よ、余りにも試練が過ぎませぬか…」

wataruru

12年前

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[もはや貴様の 命運もこれまでの様だな] 高性能兵器を駆使し アンパンマンを殺す事に 少しの迷いもない バイキンマン 自らの出生に菌が 関わっていたと知り 動揺するアンパンマン しかしそんな時あの歌を 思い出していた [ああ、 アンパンマン優しい君は 行け!みんなの夢守るため] 迷いは消えた [死ね] その場を見守る誰もが あきらめかけた その時奇跡が起きた [アンパンマン新しい顔よ!]

clear

12年前

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元気百倍!!アンパンマン!!! 神主ジャムが創り、巫女バタコが英雄に捧げたその新しき力はまるではじめからそうであったかのように英雄の肩の上に収まる 「生意気なっ!!」 黒き暗黒、異形の邪悪。バイキンマンは忌々しげに吐き捨てる。 ーーアンパンチ•••。 勝負は一瞬だった。かつて死闘を演じ、あるいは兄弟であった暗黒と英雄の物語は一旦ここで幕を閉じる。 そう、再び暗黒が目覚めるまでは•••。

nanamemae

12年前

- 完 -