山本花、3歳。 ショッピングセンターで母親に買って買ってのおねだり攻撃をしたものの、気付けば本当に置いていかれ、現在迷子。 しかしそれを悟られまいとするプライドの一心で涙は見せない。 そんな少しませた女の子が歩いていると…… 「きゃーっ、はなちゃーん‼︎」 ある大きなお姉さんが騒がしく近寄って来た。 「だれ? アタチ、いそがしいんだけど」 お姉さんは一瞬上空を見て、鳩山モナと名乗った。
- 1 -
「迷子のはなちゃん、心配ないわ。後でママの所に連れて行ってあげる。でもその前に一緒に来てくれないかな」 母親よりは若そうだが大人は大人。知らない大人にはついていくなと園長先生が言っていたのを思い出す。 「いかない。アタチ、まいごじゃないもん」 「迷子でしょ。知ってるの」 「おねえさん、だれなの?」 「だからあ…」 お姉さんは、また一瞬空を見上げる。 「丸山…レナ?」 「さっきとちがうし」
- 2 -
「細かいコト気にするガキんちょは嫌われちゃうぞ」 怪しすぎるお姉さんはアタチの、幸福を招きそうな形のイイまん丸オデココンクールで金メダルをもらったオデコを馴れ馴れしくちゅっちゅいた。 ピキ。ムカ。アタチはこういうオンナがキライでしゅ。 「馴れ馴れしいオンナはダンシがひきましゅよ、モナレナ“おばちゃん”」 “おばちゃん”は一粒300メートルくらい吹っ飛ばされるくらいにショックだったみたいれす。
- 3 -
ときに子どもの発言は暴力的で残酷だ。しかし、あくまで自称お姉さんはへこたれず、大人の意地をみせてきた。 「はなちゃんってば酷いな〜ミナお姉さん傷付いたよぉ」 「…また。なまえちがうし」 「そぉ?」 「アタチ、しってるもん。ウソつきはドロボーのはじまりなんだもん」 さとり世代が自信満々に胸を張る。お姉さんは薄く笑っただけだった。 「やぁねぇ、人聞きの悪い。…いいからついて来なさいよ」
- 4 -
女はそう言って少し強引にアタチの事をひっぱった。 「いや‼︎はなちて‼︎」 近くに人の目がある中でのこのやり取りは当然怪しまれ… 「うっ…視線が痛い…。」 けど‼︎ 「従業員の者です‼︎(にこ」 そういうと周りの人は少し疑いながらも遠ざかる。 「おばさん、うそはメッ‼︎だよ‼︎」 「嘘じゃないわwほら、着いておいで。」 「むぅ…」 ーこのちとぜったいあやちいー
- 5 -
アタチは聞き分けのいい子でしゅ。 「ふん、まぁいいでしゅ。おばちゃん、忙しいから手短にお願い」 おばちゃん、という言葉にまたも反応するお姉さん。おもちろい。 「おばちゃん、おばちゃん、早くちて」 頬をピクピクさせながらも耐えている。 「ごほん!こっちよ」 改まってどうちたんでしゅか。 おててを繋いでくるからぱしっと弾いてやったでしゅ。 エレベーターに乗り、人気の少ない所に来た。 「着いたわ」
- 6 -
「なんなんでちゅか。早く要件をいってくだちゃい」 そうあたちが言うと、おばちゃんもはなち始めた。 「あのね。わたしは、未来のあなたなの。つまり、未来のはなちゃんなの」 あたちは驚かなかった。なぜかはわからないけれど。 「ふふ。驚いた?」 「驚いてなんかないでちゅ。でも。なんでこっちに来たんでちゅか?」 あたちはたずねる。 それまでとは一変と変わって、急に未来のあたちは真剣な顔になった。なんか怖い。
- 7 -
「あなた今、迷子だったのバレないように 平然を装ってたでしょ?ダメなのよ今すぐ ママーママーって叫びなさい。」 「なんででちゅか。アタチ子供じゃないでちゅも ん。」 「花ちゃん、ママに会えなくていいの? この後、誘拐されるのよ。 そして今も一緒に暮らしている人は赤の他人。 お姉ちゃんはいなくなった、 アタチは知らぬ間にママーママーと 泣きながら叫んでいた。
- 8 -
あの後、急に恐くなってママーママーと泣き叫びながらショッピングセンターの中をうろうろしていた。すると私の泣き声に気付いたお母さんが現れて、痛いくらいに抱き締められて、そしてものすごく怒られた。 あれからもう十年以上経って、あの時のことをぼんやりとしか思い出せなくなっている。私の目の前に現れた「ワタシ」のこともだ。 だから空を見上げて、呟いた。 ありがとう、ワタシ。
- 完 -