遠き日の約束

私はその夜、通学電車に1人でのっていた。 最近通い始めた塾に夜遅くーとはいっても8時9時ーまで残り、そこから駅までは徒歩15分程度であるが、それでも暗い夜道を警戒心を一杯にして歩いていた。 何か不吉で恐ろしいものが私を察知し、私の背中ににゅっと伸びてきて私の体を取り込んでしまうのではないかと、私を不安な気持ちにさせていた。

norico

12年前

- 1 -

すると、私の肩に手を置かれるような感覚がした。 それに気づいた時、かつてない恐怖心があらわれていた。 手は凍るように冷たく、そして嫌な雰囲気を漂わせている。 身動きが取れない、まるで人に引っ張られているような錯覚に落ちていた。 不幸な場面になると思うと、それに遭遇するとはよく言ったものだ。 「……あの」 その時、急に不気味だが綺麗な声が聞こえ私は消え入りそうな声で返事をした。 「は……はい?」

Swan

12年前

- 2 -

「私、不審者なんです。ごめんなさい」 彼女は突然頭を下げて謝った。肩まで伸びた黒髪が夜の風に揺れる。 華奢な女性だった。シンプルで清潔そうなワンピースがよく似合っていて、好感を持てた。 化粧気も少ないことが、この闇の中でもわかる。私の友達の中にはそういないほどの美人さんだった。 「んー、あ、はい」 私は二の句をつげることができなかった。 どういう展開だよっ、と一人心の中でつっこみを入れていた。

aoto

12年前

- 3 -

「だから、謝ってるじゃないですか!!」 急に声量が上がった。 「は、はい!謝っていただいてます!!」 私は無理矢理合わせて、おっかなびっくりしながらも、笑顔でごまかそうとした。 が、女性はそう単純ではなかった。 「私は不審者です。だから、職務質問してください。」 綺麗な顔で、まるで名女優のように、真剣な表情でこう言った。 何だろう、この人。ニューカマーすぎる。

利休生壁

12年前

- 4 -

「えぇっと…じゃ…、貴女はここで何をしているんですか?」 「苛める人を探していました」 「いじめる??何の為に?」 「それはあなた、苦痛に歪んだ顔を見たいからに決まっているじゃないですか」 彼女は真剣な表情のままだった。 …うん、やっぱり本当に変な人かもしれない。さっさと逃げよう。 「そうですか。分かりました。行って良いですよ…」 そう言い終わるか終わらないかの所で私の顔は全体を押さえられ、

noname

12年前

- 5 -

息ができなくなった。 私の顔をつかむ彼女の手。さっきはあんなに冷たかったのに、今は燃えるようだ。女性とは思えない力だった。 (放して) いったつもりが、うぐうぐとこもった音しか出なかった。 けれど彼女は、突然手を放した。私は咳き込みながら、その場に倒れた。 「失敗、失敗」 女性がいう。状況にそぐわない明るい声に、私は心底ぞっとした。 「顔を押さえちゃったら、苦悶の表情が見られないものね」 ひー。

misato

12年前

- 6 -

逃げないと。これは相当危ない人に違いない。手をついて体を起こし、立ち上がろうと──できなかった。 彼女が背中に覆い被さったからだ。 女性らしい、細くて柔らかい身体。なのに何故か振り払うことができない、圧迫感。 さらり、と黒髪が私の首筋にかかる。 「逃げちゃだめ。私は不審者ですもの」 一体どうしてこんな目に。 誰か、誰か助けて。 「どうしてって、思うでしょう。教えてあげる」 彼女が耳元で囁く。

lalalacco

11年前

- 7 -

私 あなたに 惚れてるの。 囁かれた言葉に鳥肌がたった。 「好きな子ほど、いじめたくなる…あれって本当なのよ」 ずっと見てたの 気づかなかった? 「愛する人ほど、手中に収めたくなる…」 ねぇ、彼氏でも出来たのかしら。 「ダメじゃない、汚らわしい男の部屋になんか行っちゃ…」 私の部屋においで、たっぷり私色に染めてあげる…… 口元に押し付けられたハンカチ。狭まる視界。 …タス…ケ…

ミノリ

11年前

- 8 -

「ずっとずっと一緒にいようね!!」 遥か昔の思い出が蘇る まだ重たい瞼を上げた 私なにやってたんだっけ? それにここはどこ? 「やっと起きた?」 明るい弾むような声にはっとする 「な、なんで?」 やっとの事で絞りだした声はしっかりと彼女に届いた 「だって約束だもん!」 約束? 私はこの人と約束なんてした覚えはない 「これからは二人で暮らそうね」 私色に染めてあげるからね・・・・

ヒビキ

11年前

- 完 -