カンニングの行方

この平凡と思われたこの世界にもスリリングな出来事はある… もうすぐ始まるのだ。手に汗握るその瞬間が… 僕はこの日の為に大変な準備をしてきた。挑戦し、挫折し、絶望し、撤回し、計画し、確認し、再度確認し、希望を得た。絶対に成功させてみせる。もし失敗したら僕は全てを失うであろう…失敗は即ち、僕の人生のエンディングが流れる事になる。 僕が決行しようとしているのは… ……… …… … カンニングだ。

12年前

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それはテストを受ける者が一番行ってはいけない卑劣な行為。胸が痛むが、この僕の今の成績では留年だ。この頭では必死に勉強してももう遅れを取り戻す事は出来ない。残された道はカンニングしかないのだ。 絶対に成功させねばならない。その重圧に僕は必死に耐える。 大丈夫だ。この日の為に準備してきたんだろ? 僕は自分に言い聞かせた。いよいよその時だ。 「始めっ‼」 先生の合図と同時に僕の戦いは始まった。

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一時間目、数学。 僕は公式を全て極小の文字でメモしてきた。左手の親指の爪、薬指の内側、腕時計の下になる手首、袖口、消しゴムカバーの裏、六角鉛筆の一面、筆箱の蓋の裏、などなど。 教師が巡回に来ても自然に隠せる場所ばかりだ。しかも全て水性のボールペンで書いたので、問題が終わり次第親指の腹でこすればだいたい消える。メモ用紙を持ち込むより安全だ。 これで数学は乗り切れた。 次は公式の通用しない国語だ。

lalalacco

12年前

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二時間目、国語。 この科目は、漢字はともかく、読解問題になるとカンニングのしようがない。 …と、普通なら思う所だが、僕には秘策がある! 国語のカンペには「樹形図」を書いたのだ! 説明しよう!樹形図とは、ある事柄に関連するキーワードを枝状に繋げたものである! 昨日、一晩かけてネットで書き方を勉強しただけあって、国語もなんとかクリア! だが、油断はできない。 次は、試験範囲の広い歴史だ。

hyper

12年前

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三時間目、歴史。 これに関してはさほど悩まなかった。 なぜなら隣の席の工藤くんは歴史の秀才だ。 この日のために僕はコンタクトレンズを買った。 僕らの机は人ひとり通るのも難しいほど近い。案の定彼は超人的な早さで問題を解き終え、そしていつものように右腕を下にして寝始めた。 僕は横目で冷静に用紙を盗み見た。 自分の長めの前髪に感謝した。 この時の僕は死ぬほど集中していたと思う。 次は、英語だ。

noname

12年前

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「テストを始める前にー。皆、ズルはいけないぞー。先生達なー、皆の中にズルをする奴がいたらー、とても悲しいからなー」 テストを配りながらそんな事を言われたら、誰だってバレたのかとビビっちまってカンニングを止めるだろう。 誰だって、普通の奴ならば。 僕は違う。 僕には後が無い。このテストの点数が低ければ、僕の青春は終わる。 カンニングに、僕は全てを賭けたのだ。 カンニングは続ける、依然変わり無く。

ナゾグイ

12年前

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英語も何の問題もなかった。強いて挙げれば多少ヤマが外れたことだが、及第点を取れるのは間違いないだろう。 僕はお昼ご飯を早めに片付け、トイレの個室に駆け込み次の物理のテストに向けて仕込みをする。 ギリギリに戻ると怪しまれる可能性があるため、15分前には席に着く。よし、今回も無事に乗り切るぞ。 自席で教科書を読んでいると、不意に肩を叩かれた。 「ねぇ君、カンニングしてるでしょ」

fusuke

12年前

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血圧が上昇する。計器で測ったら針が振り切れる程に。肩の手は花岡さんだった。僕の後ろのクラスのマドンナ。 誤魔化せ! 「知ってるよ。カンニング竹山がなにか?」 「はぁ?knowじゃなくdoかって聞いたの。してるでしょ」 「ならNOだよNO」 僕は涼しく教科書を見る。が、次のセリフで椅子ごとずっこけた。 「咎めてるんじゃないよ。君に…協力してもいいよ」 「はい?」 花岡さんの頬が心なしか紅い。なぜ。

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結局、物理以降のテストは赤点だった。 花岡さんの後ろからの視線が、カンニングをさせてはくれなかった。 僕の努力は無に帰し、青春は終わった。 …と思ったけれど、僕は今、花岡さんの「協力」を受け、再試のための猛勉強中だ。 教師になりたい彼女は教え方も上手い。何とか留年を免れそうだ。 「次はテスト前にも協力してあげるからね」 ちゃんと勉強しよう。 僕の青春はカンニングをやめたことから始まった。

12年前

- 完 -