俺は、この退屈な授業がどれだけ崩壊することを望んだか。 今まで頭の中で何回、窓の外から特殊部隊を突入させただろう。 何回、教室の全ての窓ガラスを自然に割らせただろう。それもX字型に。 何回、教室をエレベーターのように急降下させただろう。 しかしそれは、決して実現することのない、退屈しのぎの余りにも酷い妄想である事は、百も承知していた。 勿論だ。 実現したら困るだろう? 実際、今とても困っている。
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しかしよりによって全て纏めて実現しなくても…。特殊部隊が窓を割り突入して来た後更に窓がX字に割れ、おまけに教室が下降して行く。 悩んでいても仕方ない、一個一個片付けるしかあるまい。 大丈夫、きっと上手く行く。なんといっても、これは 「特殊部隊!お前達は俺の妄想だ!俺が相手になってやる!」 あれ、サッカー部の渡辺くん!?渡辺くんも俺と同じ事考えてたの!?
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「それにしても、僕の妄想のテロリストが来ませんねぇ」 叶うには条件がいるのか…とぶつぶつ言っているのは眼鏡が似合う秀才斉藤くん。 え!? 斉藤くんも妄想!? こんな堅物そうな顔して? 俺がパニックを起こしている間にもクラスの至る所から声が聞こえる。 「私魔法使いになってる?」 「なあ、バト●ワいつ始まんだ?」 え、なにここ、皆授業受けてるふりして妄想ばっかしてたの!? もうどうなってんだ!
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待て待て!驚くべきところはそこじゃないだろ! 何故妄想が実現してる? いや全員の妄想というわけではないのだが…。 んななんでもありな妄想が現実になったら困るよな。 ○○と××の夢のコラボ!とかになったら美味し…くねーよ! 「私の妄想が現実になったわ!学校に隠された地下室への階段が目の前に!」 なんだと!?学年一美女の石田さんも妄想を!? それから…特殊部隊どこいった?
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特殊部隊を探そうとキョロつく俺の隣、普段は存在感薄すぎな山城さんが、急に立ち上がって叫んだ。 「駄目!教室から出て!私の妄想通りなら、地下室の階段から...」 彼女が言い終わる前に、連続して野太い悲鳴が上がった。 そして階段から次々に吹っ飛んでくる特殊部隊の人々。 どうやら先に地下室へと潜入していたらしい。 「ヤツが来る...」 ニコラス似のおじさんが、俺の足首をガッと掴んでそう言った。
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ヤツって何だよ! ニコラス似のおじさんを振り払う間にも、地下室の特殊部隊は順調に全滅しているようだ。不穏な音が教室に近づいて来た。 と、そこで目の前に誰かが立ちはだかった。 「ここは私が食い止める。君たちはその間に逃げるんだ!」 さっきまで退屈な授業をしていた物理教師、通称ハゲ。先生まで妄想をしていたのか。 そんな暇があるなら授業を面白くしてくれ!とつっこむ暇もなく、階段からヤツが姿を現した。
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何か黒い影のようなものが噴き出してくる。 その「影」は瞬く間に教室中に広がっていく。 山城さん、あんたの脳内はどうなってんだ⁉ 「皆、下がってろ‼かーめーはーめー」 ハゲ、あんたは本当に教師か? 「波ーーー!!!!!!!!!!」 でねぇのかよ!! 気づけばクラスメイトが何人も飲み込まれていく。どうする?俺!
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うわっ!そんなこんなで迷っていたら今度は【実体のある影】が出てきがった! しかも、こいつらさっき飲み込まれた生徒そのものじゃないか! 本当、山城さんは何を考えていたんだぁッ!? その時だ、一条の光がヤツに当たったと同時に消滅した……何が起こった?! 「早く逃げて!」 それを発生させた青年が何か言っている、よく見たら右手に何か持っている! 「わ、わかった!」 俺は考える暇もなく、逃げることにした。
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学校から出るとそこにはグランドが広がっていた。安心したのも束の間、学校が爆発した。誰だ、こんな妄想した奴…唖然として燃え盛る校舎をみていると後ろから声がした。振り向くとそこにはニコラスと青年がいた。「これを終わらせるにはキミが必要ダ」いかにも怪しいが…これしか無い!青年とニコラスの手に煤だらけの手を重ねた。 成功した。今は授業中。手を上げてハゲに言う。「かめはめ波はでましたか?」「何故それを!」
- 完 -