「ねえ、きみ。どこかで会ったことある?」 僕は何の根拠もなく、直感だけで、その女性に話し掛けていた。 道路沿いのとあるカフェで、彼女はサンドイッチを食べていた。 「いいえ。悪いけど、女の子探しなら他を当たって頂戴。」 「ごめん。違うんだ。あ、隣、座ってもいいかい?」 彼女は止めようとしたが、彼は既にウェイトレスを呼び止め、コーヒーを注文していた。 「ちょっと、一体何の用なの?」
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「君はこのカフェをでたらすぐに死ぬよ」 頭がちょっとあれな人がきた。きてしまった 「正確に言うとあと5分32秒後にレクサスにひかれる。ここまで言ってもまだ疑うかい?」 当たり前だ。やはりこの人はかなりヤバイ。 「アイスコーヒーのお客様?」 このタイミングでウェイトレスが来てくれるのはたぶん私が昨日電車で席を譲ったからだわ。 なんてことを思っていたら
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「気が変わった。アイスコーヒーはキャンセルだ。代わりにモスコミュールと王将の餃子を持って来い。」 その男が言った。 「当店は王将ではないので、餃子はご用意できません。申し訳ございません。」 ウエイトレスが不機嫌そうに答える。 「ふざけんな。お前が買って来い!」 男は突然激昂した。
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「それならわたしがこれから餃子を買ってきてあげるわ、 だからあなたはここで待ってなさい」 女が立ち上がりレジに向かった。 ああ、折角のんびりできると思っていたのに台無しだわ、と女は思った。 男は急に慌てふためいて、 「まっ、待ってくれ! 餃子はいらい!いらない! ここにある食いもんで我慢するから!話を!」 なぜそんなに慌てているのだろうと女は男をみた。 私に店を出て欲しくない理由があるのかしら。
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どうしてそこまで王将の餃子にこだわるのかしら。 買ってくるというのを口実に店をでよう。 違う店でゆっくりすごそう。 「餃子はいいから話を!!」と叫ぶ声をあとにし私は店のドアを開けた。
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お陰で、お気に入りのカフェでゆっくり過ごすという今日の計画も変更しなければなくなってしまった。よりによって、他の客も多くいる中で私を選ぶなんて。 「待ってくれ!」 店を出た後も男はしつこく着いてくる。 「君は、このままだと危ないんだ!」 ああ、さっき5分何秒後かに私が死ぬって言ったアレのこと?レクサスだっけ。 それならそろそろ私は、死んじゃうじゃないのよ。そう考えると、少し可笑しくなった。
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五分ね。あの時、何時何分だったのかしら。 サンドウィッチはお昼だったからわよね。服を買ったのが12時ちょっと前で、すぐそばだったカフェでサンドウィッチを頼んで、食べるのが遅い私がようやく食べ終わりそうで、デザートを、なんて時にあの人がきた…から30分くらいでカフェを出ちゃったのかしら? ケータイを見る。生憎腕時計は持っていない。 ー12時36分 パーー…ッドンっ…… 「だから言ったのに……」
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ふと、目が覚めた。 ここはどこ? 「起きた?俺の言った通りだったでしょ?」 あの変な男だ。 私は事故にあったのか。 「俺の言う通りにしていれば、こんなことにならずに済んだのにね…」 どーいうこと? 自分の身体を見ても、特に変わりはない。 「足、感覚ある?」 瞬間、頭が真っ白になった。 動かない。 「しょうがないとは思うけど、君には俺の後を継いでもらわないとね」 俺の身体あげるからさ…そう聞こえた。
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身体をあげる?意味が分からない。動けない私に彼は「…ごめん」と呟いた。 この「ごめん」の意味は彼の中身に入ってから理解した。この身体は誰の物でも無いということ。彼もまた、言う通りにしなかった一人だということ。中身に入った者は誰かを救わなければならないこと。救えなければ罰として中身を入れ替わなければならないこと。 要するに、誰かを死に誘い、身体をあげないと私は一生成仏が出来ない呪いに掛かったのだ。
- 完 -