愛し合う家族

「お母さん、話があるの」 あなたがいつになく真剣な表情をして私の前に正座するものだから、私はとても驚いてしまったの。 そうね、こんな表情を見るのは初めてかもしれない。 どうしたの、と私が聞くとあなたは、 「結婚したい人が居るの」 そう言ったので、私は益々驚いたのよ。 あなたに先を越されてしまうのね、と。 私は未婚だから。 そこで私は気がついたのだけれど。 あなたは、私の娘だったかしら?

Felicia

11年前

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私の娘だという目の前の女性。 確かに私には事実婚で産んだ一人娘がいる。 しかし娘はもっと目と口が大きかったし顎ももっと短かったんじゃないかしら? でも流石に娘じゃないなんて言えないわよね。 「お母さん?」 「あ、何でもないのよ」 私はつい話を合わせてしまった。 そして私はそのまま娘と名乗る女の話に乗せられ娘と結婚するという相手の男が挨拶に来ることを了承してしまった。 私は混乱の渦にのまれていった。

seiryu

11年前

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あれよあれよという間に、娘は挨拶の日取りを決めてしまった。 貴女は誰? 本当に私の娘なの? 私の知る娘の顔と貴女が一致しないのは何故? その疑問を娘に伝える機会は何度もあったのだが、嬉しそうに結婚相手の事を話す娘の顔を見る度になかなか言い出せない。 そして結局、心の準備が整う間もなくその日は来た。 「はじめまして」と言った男性の顔を見て、私は声を失った。

流され屋

11年前

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その男性とは初めましてではなかった…と思う。 彼は遠い昔、私が生涯添い遂げると心に決め、そうはならず涙したあの人によく似ていたのだ。 でもまさか。あの人がいま、どこでどうしているのかはさっぱりだけれど、私と同い年のあの人が娘と同年代の彼氏と同一人物なはずがない。 確認すれば一発で分かることだけれど、 「貴方は私の彼氏でしたか?」 ……駄目だ。そんな事聞いたら娘の彼氏を狙っているようじゃない。

ゆりあ

11年前

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落ち着いて考えてみましょう。 まずは名前を聞いてみなくては。この後、彼は自己紹介をしてくれるはず。 ああ、でも万が一、彼の親戚縁者だった場合、どうすればいいのだろう。 そして彼が名乗ったその名前は……私の知るあの人とまったく同じものでした。 考えられないけれど、彼はあの人と同一人物なのでしょうか。 目の前には、私の知らない私の娘と、私の知るあの人が誠実そうな笑みを浮かべて座っています。

ミズイロ

11年前

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あなたたち誰? 私は誰? この場をやり過ごすことに精一杯で、考えがまとまらない。 「お母さん。彼はね、すごく仕事ができるの」 「そう…」 「お母さん、大丈夫?顔色悪いけど」 私はあなたのお母さんじゃない!そう叫びたいのをようやっとこらえる。私は少し混乱しているだけ。そうよ、この子は私の娘で、彼はあの人ではないの。

夏扇子

10年前

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そう思った矢先、私は強い目眩に襲われた。同時に混濁していた記憶が少しずつ元の場所へと戻っていく。 そして一つ、わかったことがある。 「貴女は…貴女は娘じゃない」 親友。 「あーあ、気づいちゃったんだ」 彼女の顔にへばりついていた笑顔が消え、声に抑揚が無くなる。 「私に何をしたの」 私がそう問いかけると、口元を歪ませて彼女は言った。 「貴女がしたのよ」 その言葉に私は立ち竦んだ。

くろぶち

10年前

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忘れかけていたあの日の記憶が蘇る。 私がまだ学生だった頃。私と彼女と彼が仲良しで、親友だった頃。 私は彼が好きだった。そして彼女もまた、彼が好きだった。 彼は彼女を選んだ。 私は泣きじゃくった。私は選ばれなかったということを何度も考えては、涙を流した。 嫉妬に狂った私は、二人を殺した。 そして違う男性と事実婚を経て、娘を授かった。その娘が今、彼女となり、私の前に立っている。

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「私達、ようやく結ばれるの。二人一緒に殺してくれたあなたのお陰よ。また、二人一緒に生まれ変わることができた。だから」 目の前で、幸せそうに二人が顔を崩す。私はただ、二人の薬指にはまった愛の証に目を奪われて。 「見守っててね、お母さん──天国で」 ふと私は目を開ける。視界に入ったのは、すっかり母親の顔をした彼女。見守ってあげる。まだ幼い私の手が、再びあなた達を殺すその時まで。

momo

9年前

- 完 -