Live once again.

『ぼくは ひとりでした いつも ひとりでした みんな ぼくをきらう ぼくは わるいことは なにも してないはず …なのに。』 そこまで読んで、古びた日記帳を閉じた。 じわりと涙が滲む。 私は、幼いこの子さえも守ることはできなかったのだ。 「ごめん…ごめんね……」 薄汚れた日記帳の表紙を涙で濡らした。

のくな

12年前

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息子は8歳でした。身体が弱く、体育の時間は保健室で過ごしていました。そこで上級生にいじめられるようになったようです。まだ幼い同級生は上級生から脅かされ、息子を無視しはじめたのです。まだ、小2ですよ。同級生から無視されはじめた息子は素直に担任の先生に相談したのです。ですが、先生は幼い生徒達がいじめをするなんてありえない、勘違だと言い、取り合わなかったのです。 息子は真冬の雨の日に校庭で亡くなりました。

12年前

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どれだけ寒かったことでしょうか。 あの子の泣く姿が脳裏をよぎります。 それとも、あの子は泣かなかったのでしょうか。 この世界はもういいと、諦め、死を待っていたのでしょうか。 まだ8つの子供ですよ。 これから誰かを愛し、 誰かと助け合い、 誰かと悩み、 誰かと喜び、 誰かと分かち合い、 誰かと、 きっと誰かと、 誰かと流すはずの涙を、 たった一人で流したあの子は、 まだ8歳でした。

ふきこと

12年前

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8歳のあの子が迎えた死を、担任や校長は必死に隠そうとしました。 しかし、メディアも黙ってはおらずすぐに世間に露見する形となりました。 勘違いと言った担任、自分の地位を守りたがる校長。 聖職者がよくもまあここまで腐ったものだろうとおもいました。 たった8歳だったのです。 これから、たくさんの事を学び、成長して行くはずでした。 あの日、あの場所で。 血が滲むほど唇を噛み締め、私は誓いました。

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もう二度と、息子のような子が現れないような世界にしなければ。 夢物語だと思うでしょう。しかし、私にはそれが今を生きる目的であり、理由なのです。 きっとどこかで泣いている誰かを、救ってやるなどと高慢な考えですが何とかしてやりたいのです。諦めかけたこの世界を、再びその手に掴ませてあげたい。 私と一緒に、この世界で泣いて、笑って、怒って、悲しんで、そしてまた笑ってほしいのです。

shiti

12年前

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「助けて…。」 あの頃の息子の言葉が 日記から声となり 頭に響いています。 どれほどの涙を どれほどの悲しみを どれほどの苦しみを… 全てをその小さな背中に 背負っていたと思うと 私はあの子にとって どんなに、最悪な存在 だったのでしょうか? 夢の中で繰り返される 「お母さん、お母さんあのね」 あの子の姿に毎朝毎朝、 一筋の涙を流して 目覚めています。

Caneko

12年前

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あれから10年間、目覚めと共に襲う絶望を耐えて、息子と同じ境遇の子供を助けたい…と、それだけを生きる糧にしてきたけど、そう思うことにも疲れました。 あの子のいない人生なんてなんの意味もない。 ……だから、私は人生の幕を下ろしました。 ここはどこかしら。 周りは深い霧に覆われてなにも見えない。 とても長い間、彷徨ってる気がする。 誰かやってきた。 「お母さん」 そこには、青年が立っていた。

Salamanca

12年前

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紛れもない、私の愛しい息子だ。 「お母さん、どうして此処に?」 「ずっと、ずっと、会いたくて、守ってやれなかった事を謝りたくて...」 私は駆け寄って抱きしめようとした。 「来ちゃダメ!」 「えっ?」 「僕、お母さんの側でずっと見ていたよ。僕の事で戦ってくれた事も、だからお母さん、戻って...」 「待って、行かないで!」 「お母さん、ありがとう」 「先生、ICUの患者の意識が戻りました」

blue

12年前

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私が息を吹き返したのは奇跡だったと 主治医は呟いたそうです。 あれから… 私は勉強を重ね本を出しました。 主人公は8歳の少年。冒頭はあの子の日記から始まります。彼は理不尽な目に遭いながらも人との絆により希望を見つけます。彼は 泣いて、笑って 怒って、悲しんで、また笑って… 精一杯生きて幸せになるのです。 今では、喜んでるあの子がたまに夢に出てきてくれるのです。 「お母さんありがとう。」

RaRa

12年前

- 完 -