哀しみが産んだ思念

どうやら私の中にはもう一人の自分が居るらしい そいつは事あるごとに私に話し掛け私をイラつかせた 時に慰められる事もあった そいつは凛と言う可愛らしい名前を持った男だった 私は凛に聞いてみた 「私は精神の病気なの?」 すると凛は笑い出した どうやら多重人格障害と言う病気ではないらしい 「俺の体はある病院にあるんだ。植物状態ってやつで、魂だけ抜け出てる状態なんだなコレが」 「……は??」

12年前

- 1 -

呆然とする私をほっぼいて、凛はペラペラと話し始める。 いっ、意味わかんない。 それじゃあ、今まで私が精神の病かと悩んできた時間はなんだったのだろうか? ……「えーと、つまり凛の体を置いてある病院を見つけて魂と体を元に戻せばいいわけ?」 今までの凛の話を要約するとこうゆう事になる。 「だけど問題は俺の体がどこかの病院にあるとしか分からないってことなんだよなぁ。」 凛が呑気そうに言う

- 2 -

「………一ついい?」 「どうした?」 「自分の体が何処にあるかも分からないのに私にどうやって捜せっていうのよ。大体あんたはいっつも呑気にへらへらへらへらして苛々するのよ。それと……」 「あーーー!!!」 愚痴を続けようとしたその時、凛が急に大声を出した。びくっとして私は凛を睨む。 「な、なによ!?急に大きな声…」 「思い出した!!!!」 「何をよ……てか被せ気味に話してこな」 「俺の体!!!」

ちゃむ。

12年前

- 3 -

凛の記憶によると、凛の体がある病院には大きな松の木と、銅像があるらしい。 「本当でしょうね」 「んー多分?」 「そもそもなんで血だらけで意識が曖昧としてる中、ストレッチャーで救急車の中から運び出される風景覚えてんのよ!!」 久しぶりに長台詞を全部言い切れたことに感動する。 「・・・なんでだろうな」 いつもの飄々とした凛の声ではなかった。 感情が上手く読み取れない。 凛が、分からない。

- 4 -

「でも〜、本当に病院には大きな松の木と、銅像があったんだよ〜?」 う〜ん、なんか怪しいんだよねぇ…。 「俺は嘘ついてないぞ。」 「わ、わかったわよ。じゃあ、 もしそれが本当の話だったとして。そうね…。その銅像はどんな銅像だったのよ?」 「うーん、そうだねぇ…。確か若い女性だった。そう!かなり君に似てたなぁ。」 「………は?」 私に似てるって、一体どういう事なのよ⁉

橘 秋時

12年前

- 5 -

「ま、似てただけだから、それが君の銅像かどうかは分からないけどね」 「絶対私じゃないよ」 とはいえ、凛が嘘をついているようには思えない。 一体どういうこと?私に似た銅像、大きな松の木……。 「例えばさ、君の親戚とかがやってる病院とか、ないかな?その銅像も君の先祖だった、とかなら辻褄合いそうじゃない?」 凛が名案を思いついたかのようにそう言った。 「うーん、遠い親戚とかならあるかも……」

mani

11年前

- 6 -

「それだ!絶対そうだよ‼︎」 「でも、あそこは…」 「何だよ、行かないのかよ。俺の身体があるかもしれないんだぞ」 「わ、分かってるわよ。勿論行くわよ」 そう言って私達は、親戚の病院に向かう事にした。 そして数時間後、私達は病院に着いた。 だが、私は正直、ここの病院には来たくはなかった。 何故ならそこは、病院の割にあまりに無機質な造りで、それでいて何故か物々しい雰囲気を醸し出していたからだ。

hyper

11年前

- 7 -

写真で見て以来、来るのは初めての病院──私の生まれた場所だ。 今だに病棟に掛かる松の木は秘密を覆い隠してるような気がしてならない。 「おーい。早く行こうって! 体の気配がするからさ」 「はいはい。分かったわよ」 凛は及び腰な私のことなんてお構いなしだ。 しかし、ある部屋の前で凛の表情から笑顔が消える。 「あれ…嘘だろ?」 不安に駆られて病室を覗き込むと、私とよく似た女性が啜り泣いていた。

おやぶん

10年前

- 8 -

突然凛が涙をポロポロ零し始めた。 「君と俺は双子だ。君は小さい頃病院の3階からあの母に松の木の下に落とされた」 凛の言葉に私の体が透けて行く。凛はまだ生きていて私はもう死んでたの? あそこで泣いてる母はようやく授かった私たちを平等に愛せなかった。病院の後継は男児だけでいい。母の強迫観念は私を殺した。 残留思念の私は凛を呼んだ。凛は事実を知り自殺を図った。 「藍、凛。ごめんね」 母が私の名を呼んだ。

10年前

- 完 -