八坂と俺
「相沢~。」
「ん?」
「ちょっと話したいこと
あるんやけど。」
クラスでいちばん仲の良い
女友達、八坂が話しかけてきた。
「なんや?俺これからバイトやねんけど。」
「じゃあ単刀直入にゆうわ!
あたしと、、、」
もしや? つきあ、、。?
「縁切って?」
「はっ?」
- 1 -
「な、なんや、藪から棒に!」
特別な感情を抱いたこともないのに、どういう訳か声がそっくり返る。一方的に言われれば誰だってそうなるだろう。相沢 学は動揺を隠せるほど大人じゃない。
まだ高二で、しかもまだ十七になっていないのだから。
ひきかえ八坂 弥生はけろっとしている。心なしか胸を張っている気さえする。尖った顎がツンと上を向いているし。
「あたし、彼氏できてん! 大学生の」
だから何だ。
- 2 -
「じゃあ!」
そう言って、驚きを未だに隠せない俺を置いて八坂は教室を出て行った。
こんなにも彼女の背中を遠く思う日は今まであっただろうか。
俺は何時の間にか、八坂が近くにいることが当たり前だと思っていたようだ。
それにしても、縁を切る意味が分からない。
女ってそんなもんなのか?
俺は遣る瀬無い気持ちを抱えながら帰路に就いた。
- 3 -
そもそも、切るほどの縁があったのか?
そりゃ、顔を合わせれば話くらいはする。一緒に帰る事も…たまにあるかな。気に入ったCDを、貸してやったりも…したか。あいつ、理科が全然だからテスト前は俺が教えてやって。でも、英語は俺が教えられて。
…あるな、縁。大ありだ。
俺が彼氏だったら、そりゃ面白くねぇよ。
あいつ、意外と可愛いとこあるんだな…彼氏の為に縁切るって。
でもな、それじゃ俺が面白くねぇわ。
- 4 -
「あぁ、糞!」
今になって腹が立ってきた。そもそも一方的過ぎるだろ。俺は縁を切ることに対して了承した覚えはない!
俺は教室を飛び出し、八坂を追いかけた。彼氏が出来たからなんだ。そんなくだらん理由で、俺の友達辞められると思うなよ。
「八坂!」
駐輪場で八坂に追いついた。八坂は俺の声に気づいたようだが、反応は無かった。そして正門前には、私服姿の男が立っていた。
あいつが恐らく……。
- 5 -
恐らくは、彼氏。
…彼…、氏?
「……えっ?」
その男をみて、俺は言葉を失った。
のんきにスマホなんぞをいじるそいつは、俺のよく知る人物だったからだ。
八坂は俺を無視したまま、カラカラと自転車を押す。
そして親しげに、男に話しかけた。
男は慣れた手つきでハンドルを握り、八坂も慣れたように荷台に座る。
驚きに、俺はただ呆然とそれを見ていた。
だってその男は、俺の、実の兄貴だったから。
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俺は思考が止まったまま、いや、ぐるぐると堂々巡りのまま、いつの間にか帰宅していた。
夕飯の味もお袋のお喋りも上の空。ただ、お袋の「兄ちゃんは夕飯食べないのかしら?」という台詞に異常に反応してしまった。八坂と飯してるんだろうか?
…してる?
「ホント、兄ちゃん何してるのかしら?」
…してる?
時計の音だけが響き夜11時を指した。
「お母さん先に寝るね」
…寝る…
うわーっ!変な妄想してるぞ俺!
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やばいやばいって、仮にそうだとしたら……絶望と悶々が混ざってすごい複雑やぁぁ!
そう妄想してから何時間経っただろうか、兄が帰ってきた。
「ん?何や、まだ起きてたんか」
そんな兄の声も聞こえない俺は、すぐに八坂となにをしていたのか問い正した。
「は?何言うてんねん、俺は八坂さんに頼まれたことをやっただけや」
や……やったやと?まさかまさか……。
「変なことちゃうわ、あるサプライズや」
え?
- 8 -
「もうええわ、コンビニ行ってくる」
ぐるぐる渦巻く煩悩を抱え、財布を掴んでコンビニに向かう。
「相沢ぁ」
間抜けな声に振り返れば、当の八坂が立っていた。
「ーーなあ八坂、縁切るの、やめてんか」
「なんで」
「なんでって、そんなん」
八坂はにやにやと笑っている。まさか、こいつ、俺をはめたんか?
だけど俺も男だ、罠と気づいていても進まなければならない時もある。
「お前のことが好きやねん、気づけ阿呆」
- 完 -
作品情報
八坂と俺
#516
- リレー期間
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1年1ヶ月