八坂と俺

「相沢~。」 「ん?」 「ちょっと話したいこと あるんやけど。」 クラスでいちばん仲の良い 女友達、八坂が話しかけてきた。 「なんや?俺これからバイトやねんけど。」 「じゃあ単刀直入にゆうわ! あたしと、、、」 もしや? つきあ、、。? 「縁切って?」 「はっ?」

安田

13年前

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「な、なんや、藪から棒に!」 特別な感情を抱いたこともないのに、どういう訳か声がそっくり返る。一方的に言われれば誰だってそうなるだろう。相沢 学は動揺を隠せるほど大人じゃない。 まだ高二で、しかもまだ十七になっていないのだから。 ひきかえ八坂 弥生はけろっとしている。心なしか胸を張っている気さえする。尖った顎がツンと上を向いているし。 「あたし、彼氏できてん! 大学生の」 だから何だ。

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「じゃあ!」 そう言って、驚きを未だに隠せない俺を置いて八坂は教室を出て行った。 こんなにも彼女の背中を遠く思う日は今まであっただろうか。 俺は何時の間にか、八坂が近くにいることが当たり前だと思っていたようだ。 それにしても、縁を切る意味が分からない。 女ってそんなもんなのか? 俺は遣る瀬無い気持ちを抱えながら帰路に就いた。

aegis

13年前

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そもそも、切るほどの縁があったのか? そりゃ、顔を合わせれば話くらいはする。一緒に帰る事も…たまにあるかな。気に入ったCDを、貸してやったりも…したか。あいつ、理科が全然だからテスト前は俺が教えてやって。でも、英語は俺が教えられて。 …あるな、縁。大ありだ。 俺が彼氏だったら、そりゃ面白くねぇよ。 あいつ、意外と可愛いとこあるんだな…彼氏の為に縁切るって。 でもな、それじゃ俺が面白くねぇわ。

黒神楽

13年前

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「あぁ、糞!」 今になって腹が立ってきた。そもそも一方的過ぎるだろ。俺は縁を切ることに対して了承した覚えはない! 俺は教室を飛び出し、八坂を追いかけた。彼氏が出来たからなんだ。そんなくだらん理由で、俺の友達辞められると思うなよ。 「八坂!」 駐輪場で八坂に追いついた。八坂は俺の声に気づいたようだが、反応は無かった。そして正門前には、私服姿の男が立っていた。 あいつが恐らく……。

やーやー

13年前

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恐らくは、彼氏。 …彼…、氏? 「……えっ?」 その男をみて、俺は言葉を失った。 のんきにスマホなんぞをいじるそいつは、俺のよく知る人物だったからだ。 八坂は俺を無視したまま、カラカラと自転車を押す。 そして親しげに、男に話しかけた。 男は慣れた手つきでハンドルを握り、八坂も慣れたように荷台に座る。 驚きに、俺はただ呆然とそれを見ていた。 だってその男は、俺の、実の兄貴だったから。

森野

12年前

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俺は思考が止まったまま、いや、ぐるぐると堂々巡りのまま、いつの間にか帰宅していた。 夕飯の味もお袋のお喋りも上の空。ただ、お袋の「兄ちゃんは夕飯食べないのかしら?」という台詞に異常に反応してしまった。八坂と飯してるんだろうか? …してる? 「ホント、兄ちゃん何してるのかしら?」 …してる? 時計の音だけが響き夜11時を指した。 「お母さん先に寝るね」 …寝る… うわーっ!変な妄想してるぞ俺!

真月乃

12年前

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やばいやばいって、仮にそうだとしたら……絶望と悶々が混ざってすごい複雑やぁぁ! そう妄想してから何時間経っただろうか、兄が帰ってきた。 「ん?何や、まだ起きてたんか」 そんな兄の声も聞こえない俺は、すぐに八坂となにをしていたのか問い正した。 「は?何言うてんねん、俺は八坂さんに頼まれたことをやっただけや」 や……やったやと?まさかまさか……。 「変なことちゃうわ、あるサプライズや」 え?

Swan

12年前

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「もうええわ、コンビニ行ってくる」 ぐるぐる渦巻く煩悩を抱え、財布を掴んでコンビニに向かう。 「相沢ぁ」 間抜けな声に振り返れば、当の八坂が立っていた。 「ーーなあ八坂、縁切るの、やめてんか」 「なんで」 「なんでって、そんなん」 八坂はにやにやと笑っている。まさか、こいつ、俺をはめたんか? だけど俺も男だ、罠と気づいていても進まなければならない時もある。 「お前のことが好きやねん、気づけ阿呆」

12年前

- 完 -