2と8と1

道がありました。平坦な道でした。 そこを、モドラド(二輪車。飛ばない物だけを指す)と、それに乗った少女が走ってました。 「ねぇ、表紙だけだと性別不明だけど美少女という設定のピノ」 「なんだい?一巻から最新刊に掛けてサイズが伸び縮みしてるように見えなくもないエルモス」 「これからどうするんだい?」 「ハイスケジュールに8つほど国に行こうと思うんだ」 モドラドと少女は走ります。最初の国に向けて。

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二人は最初の国に着きました。 門をくぐると、道に長い行列が出来ていました。 ピノは列に並ぶ人に声をかけました。 「皆が並んでるから並んでるんだ」 ピノとエルモスは列の先頭に向かいました。 そこにはこう書かれた看板がありました。 『ここでお待ち下さい』 「一体何が来るんだろうね」 「並んでる人もわからないんだ。僕らがわかるわけないよ」 二人は数日、国に滞在しましたが、結局何も現れませんでした。

Fumi

10年前

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二人は無駄に過ごした数日を取り戻すべく、モドラドを目一杯飛ばし、二つ目の国の門をくぐりました。 人影の全くない街が広がり、乾いた風が街中を逃げ惑っていきました。 ところが、二人は大勢の視線を感じていたのです。 誰も居ないのに…と、モドラドから降りた瞬間、ムギュっと何かを踏みました。見るとあちこちに人が埋れ、顔だけを出し、ようこそと笑ったものですから、二人は気味が悪いと一目散に逃げ出しました。

真月乃

10年前

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さて三番手の国はというと。 「この世のものとは思えない美しさだね〜」 ピノの美少女さなんて比じゃないよ、とエルモス。 確かに、自然、建物、住人。何をとっても神々しい美しさが二人を魅了します。 「じゃあエルモスはこの国で美しく暮らす?」 「そうしよっかな〜」 その時でした。高い塔のてっぺんから女の子が突き落とされました。話を聞くと、神様への生贄の一人との事。 「…ピノこれからも宜しくね」

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あの後ピノまで生贄にされそうになったので、モドラドをビュンビュン飛ばしました。 「四番目の国だね」 エルモスはそう言ってから、うわあと、歓声をあげました。 「キャンディにチョコにジュース!!」 そこはお菓子の国でした。 「あたしここで暮らす!」 ピノはそう言ってぴょんと飛んで、他にどんなお菓子があるのか周りをぐるりと見ました。 「あ、でもやっぱやめる。お菓子の食べすぎてみんな太ってるんだもん」

1106

9年前

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エルモスは終始納得したような顔をすると、近くにあった紫色のおかしな家を見つけた。 「ピノ、あれ何かな?」 「お菓子の家に決まってるじゃない」 いやそうなんだけど…と言葉を濁すエルモスとは反対にピノは紫色の毒々しいお菓子の家に手を伸ばすと、ガッツリとその一部を掴んだ。 「えっ…いやいや、ピノ!?」 遅かった。 ピノの口元は紫色に染まり、大きな咀嚼音を立てながら満足そうな顔で食べている。

ユキト

8年前

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嫌がるピノを強引に連れ出し、エルモスは走り出す。 5番目と6番目の国の境はほぼありませんでした。 しかしその住人達はお互いの国民に対して皆似たような事を言うのです。 「隣国の人々は嫌いだよ」 今にも紛争が起きそうな国を去っていく旅人を見て2つの国民はこう言います。 「うまくいったね」 「この2種以外の人間はこの国にいらないね」 「まさかあの旅人も俺らがこんなにも仲良しだとは、思わなかっただろう」

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ケヤキの扉を開くと、永遠に続く書架が立ち並んでいた。遮る棚も突き当たる壁も、廊下の先に見えない。 ピノは、国の案内図を確認する。世界の国の棚、novelnoveの棚、あとがきの棚、モドラドのしつけ方の棚。 ブロロン! エンジン音が誇張されたように国内に響いた。 「静かにできない方は退出願います」 鋭い指向性を持った声が、受付から届く。 カバー裏に文の書かれた本の対応に悩む受付を横目に、国を出た。

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8番目の国についた2人は、表紙だけだと性別不明な美少女と一巻から最新刊に掛けてサイズが伸び縮みしてるように見えなくもない少年が飛ばない二輪車に乗って8つの国に旅立たんとするのを見た。 「また別の誰かによってあたしたちは読まれるんだね。」 「そうだよピノ。ページをめくる誰かによって僕達はまた旅に出るんだ。」 モドラドは飛べない。物語は飛ばせないから。 モドラドは二輪車。指と期待だけが車輪だから。

茶坊主

6年前

- 完 -