失われた時間

ずっと、探していた。 3年前、学校行事のクラスでの合宿に参加した。宿泊先には、偶然同じ日程で、遠くから他の学校が合宿に来ていた。 彼は、その学校の人だった。 あるちょっとしたきっかけで彼と話して仲良くなって、名前が大雅くんだと知って、大雅くんの優しさを知って恋をした。 合宿が終わるのと同時に彼氏とは挨拶もかわさずに、別れた。 後悔をしている。 3年後の今も彼を想うなんて。

13年前

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そしてその彼は今私の目の前にいる。 椅子に縛られて苦しそう。思わずにやけてしまう。 自分がやったくせに客観的に見ている自分を恐ろしく思う。 「大雅くん、水欲しい?」 その問いかけに恐怖と疑惑を目に浮かべながらこちらを見る大雅くん。 口はガムテープで塞がれているから小さく頷いて意思表示をする。 私はコップに入った水を口に含み、大雅くんに近付く。 目の前までくると優しくガムテープを解いた。

ocelot

13年前

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「何でこんなコトするんだ?」 彼が疑惑の目で私を見ている。 私は黙って口に含んだ水を飲ませた。 そのまま長く、激しいキスになった。 ああ…私はどこまで酷い女なんだろう。こんなに赤面して嫌がる彼すら愛おしいと思うなんて。 「好きなの」 「とまらないの」 私の口から零れ落ちるワガママ。 すると、彼が抵抗をやめた。

ari

13年前

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ホッとするや否や、彼は唐突に私の背中に腕をまわしてきた。 そのまま強く抱きしめられる。 彼の表情にはもはや恥じらいや怒りの色は消えていた。 息を吸うことも儘ならぬ程の口づけ。 酸素を欲するも許されず、次第に意識が朦朧としてきた。 暫くして彼が私から離れた。 「そんな人だなんて思わなかったよ」 頭が回らないものの、彼が私にいだいているものは「呆れ」だということは感じ取ることができた。

se-shiro

13年前

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「そう?」 いやらしく笑って見せ、彼の唇に再び自分の唇を重ねた。 今度はちゅっと触れるだけの軽いキス。 「私はずっと愛していたのに、三年以上も」 これ程にも長い間愛していたというのに、彼には伝わっていなかったのだろうか? この途轍もない程に深い彼への愛に。 柔らかな彼の髪を壊れ物を扱うように撫で、うっとりと見つめる。 そんな私を彼はただ黙って気難しそうな顔をして見つめていた。

優迻。

13年前

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「あれはとても愛と呼べる代物ではない」 彼は怒りを露わに、椅子の足をドタンと鳴らす。 私は彼の手の届かない範囲まで下がり、腕を組んだ。 椅子の足に固定された彼の足は鬱血して変色している。彼がどうもがこうと、立ち上がることはできない。 「このストーカーめ」 彼が叫ぶ。私はにらむ。 私の愛が否定された? 純粋な思いを拒絶されるのは悲しいことだ。 「立場というものが分かっていないようね。大雅くん」

aoto

13年前

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こんなことを、したかったんじゃない。そんな眼で、見て欲しかったんじゃない。ただ、愛したかった。ただ、愛して欲しかった。 「いい加減わかってよ」 何もかも止まらない。否定しないで。嫌いにならないで。許さないで。私を見て。もっと泣き顔を見たい。いろんな顔を見たい。 「…っ」 泣き顔を見せたのは、私の方だった。

kako

13年前

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「わだじわあなだの、 あなだのズドーガー じゃない!! ずぎだっだだけ!! あいじでいだだげ!!!」 「わだじぶぉわだじだげを だぎじめで、だぎじめで!!」 「がああああああああっ!!」 理性を取り戻したときには 手遅れだった… 私の口の中には 彼が彼の指が、腕が… これじゃ彼は私を 抱きしめられない…

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あと少しで大雅君は私のものになったのに・・・ 警察が踏み込んできてすべてが終わった。 「しかし人間わからないもんですね 犯人は被害者の母親の歳ですよ しかも学年主任で情熱のある教師として評価高かった」 若い刑事が嘆息する それには答えずベテラン刑事は車の外を眺めていた。 男女の高校生のグループがそれが永遠に続く瞬間であるかのようにじゃれあっていた。 そうただ自分も帰りたかっただけだあの時間に

- 完 -