「好きな人を監禁したいと思ったことあるでしょ?」 「僕はないね」 「私はあるの。ていうか今も思ってるんだけど」 「そうなんだ」 「なんていうか、私以外の女と喋ってるのも…ううん目を合わせてるのさえ嫌なのよね」 「へえ」 「で、どう?」 「どうって何?」 「男の人って監禁されたいと思うのかしら?」 「彼氏の僕としては恐ろしいことこの上ないんだけど」
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「何が恐ろしいことがあるの?好きな人と一日中一緒にいられるのよ?衣食住にも不自由させないわ」 「させないわ。ってお前まさか…」 ガチャリ、と僕の右手首とテーブルの脚にどこで手に入れたのか手錠がかけられた。 「私に監禁、されてくれない?」 もうしてるだろ。 「嫌だと言ったら?」 「もちろん解放してあげるわ」 「別れるけどね」 僕の彼女はずるい奴だ。
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「もしよかったら離して欲しいな」 「いやよ」 「いやって……僕もいやなんだけど」 「私のこと、嫌いなの?」 「そうじゃなくて」 「そうじゃないなら、なによ」 「ううん…」 「私、知ってるのよ。あなたが最近可愛い女の子とよく喋ってるのを。昨日だって、あの娘と一緒にデパートへ行ったんでしょう」 「えっ?あ、そりゃあ……」 君の誕生日プレゼントに何を買ったら良いか相談してたんだ、なんて言える訳がない。
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「私、知っているの。あなた、あの娘の隣で一緒に勉強してたでしょ?」 あれは、君が休んでいたときのノートを作るのを手伝ってもらっていたんだ。 なんて、言える訳もない。 僕にできるのは、この既に外れている手錠が掛かっている振りをして、ただ彼女が満足するのを待つのみ。 そして、僕が彼女を愛しているということを体で示すだけだ。 言葉にすると安くなる。 容易にできてしまうから。 僕はそういうの好きじゃない。
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手錠を掛けられたことはない。 鎖をガチャガチャ鳴らしてみる。 ホンモノ? どこで手に入れたんだ? 僕を監禁するために? 手錠の冷たさと硬さ、重さ。 彼女の中に同じものを感じる。 この女はサイコだ! どうして今まで気づかなかったんだろう。 「とにかく、さ」 わざとらしくならない程度の笑顔と声を出してみる。 「こんな話し方やめない?君が見たことはぜんぶ説明できるからさ。外してよ、これ」
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「鍵がないの、それ」 「どうして?」 「それ買った後、鍵だけ川に捨てたから」 最初から解放するつもりがないって、おい。というか鍵ないと僕はここに拘束されたまま。トイレどーすんだ。 「心配ないわ。あなたの為ならなんでもできるし」 だめだ彼女の脳内はサイコモードでいろいろオカシイ。目がやばい。 「あなたの瞳に私しか映らないなんて素敵だわ」 床に座り込んだ僕の顔を覗き込み、僕の額に流れる汗を拭う彼女。
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「仮に君が僕に飽きたら、その時はどうなるのさ?」 そう聞くと彼女は意表を突かれたような表情をし、すぐ笑って見せた。 「そうしたら、鍵屋でも呼ぶか、放置ね。でも大丈夫。私はあなたに夢中だもの」 リアル放置プレイの恐れに鳥肌が立った。 「学校はどうするのさ」 「行かなくてもいいでしょ?」 「いいわけないだろ! 学費だって払ってるわけだし、将来のことだって」 僕の突然の大声に彼女はびくりとした。
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「将来のこと、だなんて…。私との未来までちゃんと考えてくれてたのね。…嬉しい」 勘違いで泣き笑いに顔を歪める彼女。その顔に差す影が深くなる。 「大丈夫よ。学校やめても、家でも勉強して資格取れるし、自宅でも働けるわ。外に出る仕事は全部私がするから」 彼女の微笑みに、背筋が総毛立った。 「大丈夫。私はずっとあなたを好きでいるから。 あなたはずっとここにいて。…私のことを嫌いにならないで。ね?」
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「好き…、好きよ 愛してるわ」 譫言のように呟かれる言葉に、こんな状況なのにも関わらず笑みが溢れた 彼女は僕が好きなだけなのだ 「君の、好きにすると良い」 女性特有の柔らかい髪を梳きながら僕は笑った 「ありがとう、」 そんな言葉と同時に、何故か、腹部に鈍い痛み 彼女は僕にナイフを突き刺した 「これからは…、……… 視界が霞む中、彼女が狂気的なまでに純粋な微笑みを見た
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