「キャー!」 隣の部屋から悲鳴が聞こえ、残った8人が駆け込む。静江はうつ伏せに倒れ、背中にはまっすぐ刺さったナイフ。 「まるで『そして誰もいなくなった』じゃない」光恵は震えた声でつぶやいた。 「なんです?」一番若い栄太が聞き返す。 「クリスティの古典ミステリーだよ。最近の大学生は本も読まんのかね」初老の徳一郎が毒づいた。 「9人が順番に死ぬっていうの?変なこと言わないでよ」恭子が徳一郎を睨む。
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「まあまあ仲良くやりましょうや。まずは安否確認だ」太郎はジャケットを脱ぐと言った。 太郎・・・実業家 光恵・・・主婦 栄太・・・大学生 徳一郎・・・初老 恭子・・・編集者 高木・・・ピアニスト 深田・・・公務員 貴子・・・OL 静江・・・看護師(死亡) 「よし、静江さん以外は無事だな」 「ちょっと待って!徳一郎さん、寝てるの?」貴子が叫んだ。 椅子に座っていた徳一郎は既に息をしていなかった。
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[な、なんで?徳一郎さんまで死んでるの⁉] 突然の事で、皆が驚愕する。
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公務員の深田はガタガタ震えていた。 「警察はまだか•••!」 ピアニストの高木は低い声で答えた。 「この嵐で道は土砂崩れ。今晩は到着しないでしょう。深田さんは水でも飲んで落ち着いてください。僕はピアノを弾いてきます」 そういうと二階のピアノ室へ向かった。 ガタガタ。深田の震えが止まらない。 「私はシャワーを」深田に水を手渡すと恭子も部屋を出ていった。 その時、深田の震えがすっと消えた。
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よほど効き目があるのか、それとも体質なのか、深田は口から血を流し息を引き取った。水に毒物が混入していたらしい。 水を渡したのは恭子さんでしたよね、と貴子がいう。水を飲むように指示したのは高木の方だ、と太郎は指摘する。 それなら、犯人は恭子と高木の共犯だ、と栄太が勇み、風呂場に走り出すので追いかける。 「この展開なら高木はピアノを前に死んでるさ。それより覗きの口実だ!」 栄太は太郎に耳打ちする。
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「口実なんて構わない。三人死んでいるんだ!」 言うが早いか太郎と栄太は風呂場の扉を開けた。恭子の目は見開かれ、出しっ放しのお湯が彼女の喉から噴き出した血飛沫を洗い流していた。 その場に立ち尽くす栄太の肩に手を置きながら太郎が言った。 「高木が共犯の恭子を口封じで殺したのかもしれん」 「でも、高木さんが弾くピアノは二階からずっと聞こえていましたよ」 その時悲鳴が響き渡った。 「光恵と貴子が危ない!」
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ドーン!! 地鳴りにも似た大きな音が奥から聞こえた。 「おい、今度は何だ!?」 太郎と栄太が広間に駆け込む。 「うわ…こんなデカいのが、どうして…」 そこには、100冊を超える本が入っていた巨大な本棚が貴子を下敷きに横たわっていた。 「と…突然、倒れてきたんです。」 光恵は半分、放心状態だった。 状況からして光恵が怪しいのは確かだが、小柄で華奢な彼女に不可能なことは一目瞭然だった。
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「高木も確認しよう」 恐怖に震える光恵を栄太がみていることにして、太郎は二階のピアノ室に入る。 やはり高木は首をピアノ線で切られ死亡していた。 光恵をおいて来てよかった、と安堵したのも束の間、二人の悲鳴が響く。 「しまった!」 慌てて駆けつけるが、残されていたのはおびただしい血溜まりだけ。 これが二人の血なら、もう手遅れだ。 『まるで「そして誰もいなくなった」じゃない』 光恵の言葉を思い出した。
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「フッ…フハハハハ…」 太郎はどうする事も出来ず、笑いながら立ち尽くすだけだった…。 ーGAME OVERー プチッ… 「ったく…この太郎ってキャラ、使えねーな!何も出来ないうちに全員死んじまったじゃねーかよ。そしたら、今度は栄太使ってみるか…。大学生だからフットワーク良さそうだし。もう太郎はダメだな」 こうして、彼はミステリーゲームを再スタートさせたのだった…。
- 完 -