集められた容疑者は五人。 この中の誰かが、夏木を殺した。 ー 証言1 春原貴子 夏木さんとは中学の同級生でした。卒業してからは疎遠で、だからあの日、このバーで亡くなったのが夏木さんだと知って一番驚いたのは私です。 お財布は、彼が落としたので拾ってあげました。指紋はその時に着いたのでしょう。 ええ、顔は見ました。でも夏木さんだとは分かりませんでした。 本当に、偶然居合わせただけなのです。
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ー 証言2 秋月雅美 夏木さんとは一緒に飲んでいました。さっきまで一緒にいた人が死んだなんて… でも、彼とは初対面です。どうしても奢らせてくれと言い、私にカクテルを持ってきました。私は一人だったので、まあ寂しさも紛れていいかなと思い、一杯だけ付き合いました。 彼には連れの方がいたようですよ。元々かなり酔っ払った様子で私のとこに来ました。 彼はトイレと言ったきり、そのまま席に戻りませんでした。
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ー 証言3 三浦亮太 まず一つだけ言わせてくれ。夏木を殺したのは俺じゃない! 夏木とは大学時代からの飲み友達で、二人でよく飲みに行っていたんだ。あの日もいつもと同じように行きつけのバーへ行っただけさ。それがまさかあんなことになるなんて…。 後から思えば、その日の夏木の様子は妙だった。時々青ざめて後ろを振り返るんだよな。俺も相当酔ってて記憶が定かじゃないけど、まるで誰かにつけられてるようだった。
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ー証言4 高橋ジョン太一 夏木さんはこのバーの常連さんでした。 二人でよく飲みにいらっしゃってましたよ。三浦さんはほとんど飲みませんが、夏木さんはいつも泥酔するくらい飲んでます。 え? まぁ、確かにマナーのよろしい方とは言えなかったですね…。酔い潰れてるのを起こそうとすると、激しく殴ってきますし。三浦さんは小柄ですから、私がタクシーまで担ぐこともしばしば。 でも、そんなことで殺しませんよ?
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ー証言5 杉森貴志 失礼しちゃうわ!アタシはこのバーの常連よ。夏木さんとは常連仲間だけど連絡先も知らないし、普段は会う事もないわ。 今日はアタシ…ここ、トイレが男女ひとつずつあるでしょう?女用は空いてたけど、アタシほら、まだついてるから男用に入る事にしてるの。だから、男用が空くのを待ってたのに中々空かないから…酔いに任せて無理矢理開けちゃったのよ…そしたら…血だらけの夏木さんが……えぇ〜ん!
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「男子用トイレの便器! 貴方は死亡した場所に立ち会ってますよね。凶器は何処に隠したんだ?おい! 便器に話し掛けるとか俺どうかしてるのかな…それほどに夏木さんが亡くなられた事がショックでさらに他殺ということで犯人への憤りを抑えられません。」 「杉森さん落ち着いて」 泣きじゃくる杉森を宥める三浦 「三浦君…」 妙な雰囲気だこいつら浮かれているのか、男同士で何なんだ。
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「嘘をつくのはあまり得意ではないですね?春原さん」 「えっ、何言ってるんですか?秋月さん」 「私、見たんですよ。夏木さんの財布を渡す時、何か入れましたよね」 ベテラン刑事の眉間の皺が深まる。 「それは…その」春海の額から汗が流れる。 「正直に話してくれないと我々としてもあなたを疑わなくてはならなくなります」 「それは、同窓会の時の写真です。実は1年前の同窓会で夏木さんとは一度会いました。
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連絡先を知らなかったから写真、渡せなくて…。本当です!」 ベテラン刑事は何か考えるような仕草をし、そっと口を開いた。 「しかし私には気がかりなことが一つあります。それはあなた達が付けているその指輪です」 「えっ⁉︎」 「被害者の指には不自然な白い跡がありました。今しがたまで何かをつけていた様な…そう、指輪です。そしてあなた方二人は今、同じ指輪をしています。これは偶然でしょうか?どうなんです?
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「秋月さん、杉森さん」 その場の視線がいっせいに二人に集まった。 「重要なのは犯人が指輪を奪った理由だ。ですよね、秋月さん」 秋月雅美の肩がびくり、と震えた。 「その指輪、あなたの薬指には大きすぎるのでは?」 「だって仕方ないじゃない!私、ずっと杉森くんのこと見てたのに……あんなオジサンがいいなんて……こっそり付き合ってたなんて……!」 顔を歪め唇を戦慄かせる雅美の腕に、冷たい鉄の輪が落とされた。
- 完 -