現在進行形で本当にあった怖い話。

「夏だから怖い話しようか」 唐突に姉が言った。怖い話好きだからいいけど。 「実はさっきね」 え、さっきって何。怖い話じゃなかったの。 「ガチャって玄関が開く音がして、私リビングに居たんだけど玄関周りが明るくなってたし誰か帰ってきたと思ったの。でも誰も入ってこないし、知らない人なら犬が吠えるでしょ?だから見に行ったらね、玄関鍵が閉まってたの」 姉の表情は強ばっていた。

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なんだよ、下手な演技しちゃってさ。 べ、別に怖くなんかないからな。 「あれ?って思ったけど」 姉は構わず続ける。 「さすがに私も気のせいかなって思ったの。だからさ、またリビングに戻ろうと思ってドアに背中を向けたんだけど、今度はコンコンってドアをノックする音が聞こえて。ちょっと怖かったけどドアを開けてみたの。でもそこには…誰もいなかった」 ゴクンと俺の喉を渇いた空気が通った。

asari

8年前

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ここは弟として、いやこの家の長男として対応してやろうか。怖い話は好きだけどな。怖いにも種類ってのがある。 「まず覗き窓ドアについてるんだからさ、ちゃんと誰が立ってるか見てから開けろよ」 「うん。見たらね?人が立ってるように見えなかったの。で、ドアを開けたのよ」 父なら、お帰りなさいって言えだの話そうだの玄関先から鬱陶しいはず。母は温泉旅行中だ。俺が部活から帰って来た時、わん太も普段通りだった。

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「鍵を閉めてリビングに戻ろうとしたら、今度は足音が聞こえてきたの。どんどん近付いて来て、ドアの前で止まったの。確かにそこに誰かいるのよ。もう怖くて怖くて、動くことができなかったわ。そしたら、鍵がカチャンと回って、え!?って思ってるうちにドアがゆっくり開いて…」 姉の声だけが耳に入ってくる。追体験しているように、生々しく映像が浮かんでいた。 「入ってきた!と思ったら、あんただったのよ」

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「なんだ……。俺のドキドキを返してくれよ」 身構えた俺が馬鹿みたいだ。姉は大学とバイトの疲れで、神経が過敏になっていたんだろう。 「ごめんね。あんたとわかった時はすごくホッとしたんだ。でも、ね……」 だけど、違和感がある。 「なんであんた、玄関開けた時」 そうだ。 「怖いくらい、嬉しそうな顔してたの」 俺には今日家に帰った記憶も、玄関で姉と会った記憶もなかったのだ。 「ねえ、なんで」

Fumi

6年前

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「それ何時の話?」 「あんたが帰ってきた時だから5時半?」 やっぱり。 「それ俺じゃないって」 姉の顔から血の気が引く。サーと音が聞こえた気がした。 「俺帰ってきたの7時前だよ」 「本気で言ってるの? あんた5時半にニコニコしながら帰ってきて自分の部屋に入っていったじゃない」 今度は俺の顔から血の気が引く番だった。 「ちょ、待てよ。俺の部屋に、俺の顔した別人が今もいるってこと?」

Dangerous

6年前

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「見てきなさいよ。あんたの部屋なんだから怖くないでしょ」 「その理屈おかしいだろ」 「私の気のせいだと思いたいから、確かめてきてよ」 切迫した姉の顔。俺の背中はねっとりとした汗が流れている。 「一応、なんか、武器になるもの、持ってた方がいいよな?」 「わ、わかんないわよ。でも危ないからそれがいいかも」 俺は何故か軽量が売りの掃除機を片手に部屋に向かった。ドアに手をかけ、ゆっくりと開けるとそこには、

《靉》

6年前

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──ドンっ!! 後ろから何者かに突き飛ばされた。床の上を転がり、震える手足を動かして何とか四つん這いの姿勢になる。首はガチガチに固まり、後ろを振り返れない。 前方に落ちた掃除機を掴もうとするが、指を流れる冷たい汗のせいで滑ってしまう。 ──ヤバイ。死ぬ。 恐怖を堪えて身体ごと反転させ、やっとの思いでドアの方を見ると── そこには、顔を真っ赤にして、笑いを堪えんとする姉がいた。

夢幻

6年前

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「ぷっ……あっははははは!」 結局姉は吹き出して、腹を抱えて笑い始めた。 俺の感じた恐怖を返せよ! と、大声で怒鳴りたいところだったが、そんな元気もない。俺は深呼吸をして心を落ち着けると立ち上がった。 ひとしきり笑った後、姉は自室に戻ったらしい。迷惑なやつだ。 「悪い冗談はやめろって……」 ボソッと呟いた時、玄関の鍵が開く音が。 「ただいまー」 と元気な姉の声。 ____え?

そら

6年前

- 完 -