初恋乙女

激しい頭痛で目が覚めた。 ヒドイ痛みだ。 まるで二日酔いの後、トンカチで 頭を殴られたような感覚だ。 吐き気もする。 僕は台所に行き顔を洗った。 そしてコーヒーを淹れた。 ブルーマウンテンやキリマンジャロなど 贅沢はできない。 普通のブレンドだ。 そいつは味がしなかった。 僕はそれをゆっくりと胃の中に流し込んだ。 暫くするとインターフォンが鳴った。 時計を見ると短針は6を差していた。

13年前

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誰だよこんな早くに。 来訪を知らせるその音は今の僕にはひどくうるさく響いた。 何度も僕を急かすその音に、仕方なく早足で玄関に向かう。とにかく音を止めたかった僕は外を確認せずにドアを開けた。 開いたドアの前にはこの辺りでは見かけない制服を着た、見覚えの無い女の子が緊張を隠せない引きつった笑顔で立っていた。 「あ、あの…昨日はありがとうございました」

(P)

13年前

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「え…?」 誰だこの娘。きゅっと猫目で、色白。かわいらしい顔をしてる。好きなタイプだが…見憶えはない。だいたいこんな年齢の女の子に知り合いはいない。 「入ってもかまいませんか?」 彼女に尋ねられて、僕はあいまいにうなずいた。ダメだ、頭痛はますますひどくて、まともに物を考えられない。 彼女は、靴を脱ぐと、まるで知っている家のようにぱたぱたと廊下を歩き、台所に入った。僕はぼんやりと後を追う。

corona

13年前

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「忘れ物、しちゃって」 彼女はキッチンのテーブルから、ラメのついたシュシュを取った。 忘れ物、ということは彼女は昨晩家に来たんだろう。 …え!?俺、こんな若い子と?!犯罪じゃねぇか…! ガンガン響く頭で昨晩の事を必死に思い出そうとしていると、彼女が小さな口を開いた。 「あの、昨日の事、覚えてます…?」 おおー、色男、こういう状況ではどう答えるのがベストなんだ…?

Midvalley

13年前

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「いや、なんか、あんまり覚えてないんだけど…」 ダメ男丸出しで、少し、というかかなり濁して応えると、彼女はニコリと微笑んで言った。 「そうですよね……。いえ、それでいいんですよ。」 それだけいうと、玄関に向き直り、歩いて行った。 覚えてなくていいって…よくわかんねえな……てか記憶が無いってまずくないか?! 思考が追いついていない僕をよそに、彼女は靴を履き、振り向くとこう言った。

sky-delta

13年前

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「私は一生わすれない…」 そう言い残し彼女は出て行った。

だいき

13年前

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ドアが閉まると俺は頭の痛みをこらえ、なんとか冷蔵庫までたどり着いた。まだアルコールの抜けない身体は水分を欲していた。 冷蔵庫の中の普段飲まない牛乳パックを見たとき、俺の記憶はフラッシュバックのように蘇った。 路上で寒さに震えていた白い野良猫。酔っ払ってすっかり博愛主義者になっていた俺は、コンビニで牛乳を買うと、子猫を抱え部屋に戻ったのだった。 「まさかな‥」俺はつぶやいた。

旅人.

13年前

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マンションの一室を見上げている少女がひとり。少女は手に持っているシュシュをぐっと握る。 「わたしを助けてくれたあの人に恩返しするの。」 少女の足元には「男性がぐっとくる女の武器の使い方50!」と書かれた雑誌が落ちている。 少女は髪をシュシュで括り、雑誌を片手に颯爽と歩き出した。しかし、何歩も行かないうちに転んだ。 「ああ、やっぱり力が足りないんだわ。まず、力を蓄えなきゃ。」

物見遊山

13年前

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すると少女は猫の姿に変わった。 シュシュは真っ白な長いシッポに巻きつけられ、輝いていた。 「取り敢えず、猫の姿で走り回ろうかな。」 シェイプアップもしなきゃ。ただ走るだけじゃ意味がない。塀に昇ったり、木に登ったり、普段やらないことも組み入れて行かなきゃね! 疲れ果てた猫が彼のベランダに辿り着き、それを見つけた彼にまた牛乳をもらい、更に意気込むのはまた別の話。 少女が彼に再び会うのは数日後の話。

ハイリ

13年前

- 完 -