哀れな暗殺者

片川枇杷は暗殺すべきリストを眺める。 そこには9人の名前とプロフィールが載せられている。 まずは一人目。 枇杷は実川林檎の額に拳銃をつきつけた。 こいつは帝都大橋事件において、逃走用の車を準備し、運転を担当していた。 こいつが犯人たちを、匿名性が高く、安全な社会に帰した。 こいつさえいなければ、犯人たちは今頃牢屋に入っていた。 枇杷はトリガーをひく。 林檎は始末した。メール文を送る。

aoto

13年前

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続いて二人目。 枇杷は房峰葡萄の背にナイフを突き立てた。 こいつは帝都大橋事件において、事件の可能性を知りながらも大量の武器となり得る刃物や鈍器を犯人たちに提供した。 こいつさえいなければ、いやせめてこいつが武器を売らなければ、もしも売ったとして、すぐ警察に通報していれば。 あれほど大量の死傷者を出さずに済んだのに。 枇杷はナイフを抜く。 葡萄の身体が崩れ落ちるように倒れた。メール文を送る。

lalalacco

12年前

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サクラ、ベリーと、何時も通りの長い時間を楽しんだ。 決意をどれだけ固めたところで消しきれない感情は残っている。 だが、今更止める訳にも行かない。こうしなければ奴には届かない。ここで自分が裏切った時のプランすら、自分達で綿密に立てて来たのだ。 他殺に見せる証拠の確認を終え、帝都大橋事件の実行犯にさせられた、片川枇杷、此花サクラ、此花ベリーの三人は、毒入りのグラスを飲み干した。 リストは、残り4人。

ナゾグイ

12年前

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片川は、暗殺の準備に取り掛かった。 実は片川は忍者の末裔だったのだ。片川の故郷はとある山奥の隠れ家で、そこで片川は忍者の暗殺術を扱されながら育った。 辛い修行だった・・・。 音立てずに走る、剣の稽古、暗器のマスター、変装術、急所の勉強、毒の勉学、断食、あらゆる拷問に耐える術など・・・。 死にかける思いで耐えてきたのだ。

12年前

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6人目だ。片川は甘党蜜柑の頭に釘バットを突きつけた。 こいつは帝都大橋事件の後、情報隠蔽のため暗殺した。 こいつさえいなければ、事件後の不明な死の多くは免れたんだ。 甘党蜜柑は俺と同郷だが、忍術の使い方が許せない。 かく言う俺も実行犯ゆえ毒を飲んだから、急ごう。死ぬまでに殺し切れない。 他殺に見せかけるために、崖の下に死体を転がす。 蜜柑は始末した。メール文を送る。リストは残り3人だ。

雪見灯火

12年前

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驚いたことに、六針梔子は既に死んでいた。 誰が手をかけたか、裁ちバサミが首の後ろに突き立っている。 梔子はひどく美しく、また恐ろしく頭の回る女で、帝都大橋事件の折には、春と引換にあらゆる情報を握り、気まぐれに操作していた。 こいつさえいなければ、我々も警察も報道も、苛酷なダンスを踊り続けることはなかった。 梔子は既に始末されていた。一体誰が? 残り2人。 メール文を、送る。

sir-spring

12年前

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残り2人。そのうちの一人、暗殺業界ではなの知られた赤野苺子の足取りを追う。 奴の近辺を洗い出し、罠を仕掛け誘い込む。 奴が罠にハマったと思った瞬間、それが奴のダミーだと気付いた。 直後、背後に感じる悪寒と殺気。 そこから奴との一騎討ちが始まり、互いに致命傷とまではいかないが手傷を追う。 そして、あと一歩で奴の頭をぶち抜けるという時、先日服用してしまった毒が今になって効きめを表し意識が遠のき倒れた。

seiryu

11年前

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視界に光が渦巻き手足が麻痺してゆく。毒の作用に抗う枇杷の頭は、奇妙な演繹と帰納を繰り返しはじめた。 近世最大の黒歴史、帝都大橋事件。 だがリストの9人全員をたぐっても「首謀者は誰か」はブランクのまま。 暗殺だけが独走してきた。 制裁ではなく、真相を知る彼らの口封じでは…? 全力で突っ込んできた苺子の身体に、枇杷が突き出した刃が沈む。 ミッション終了。 メール文。 全てが闇に沈んだ。

en_moan

11年前

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携帯にメールの着信音。時間切れね、と片川白桃は枇杷を見下ろした。 哀れな兄。買収された故郷を取り戻そうと凶悪な彼らに加担した。 挙句、生来の正義感に従い彼らに制裁を加え、自身も死を選んだ。彼らを唆したのが妹とは知らず、自分が引き込んだと後悔し乍ら。 9人目になれなくてごめん、と白桃は笑った。 お金は私が頂くわ。あ、梔子を刺したのは私よ。私より美人は嫌いなの。 軽やかな声はもう枇杷には届かない。

misato

10年前

- 完 -