溢れる想いを

なんとなく思いついた。 暇だったらやってみた。 そこにiPhoneがあったから。 自分の番号にメッセージを送ってみた。 LINE飛ばしても誰も反応してくれなくて寂しいからとか友達のトプ画が彼氏とのツーショットだったからとかじゃ断じてない! ただやってみたかったの!好奇心旺盛な少女のココロが疼いただけ! とにかく私はメッセージを送った。 適当に「あ」。返信は当然「あ」。 ーーじゃなかった。

pinoco

11年前

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『あい』 ……………………………………………あい? あいって「愛」だろうか。 私は試しにメッセージを送る。 「愛してますか」

ゆりあ

11年前

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『愛してますよ』 思わずドキッとした。 すぐに返ってきたメッセージは、超弩級の直球だった。 そのまま私はメッセージを送り続けた。 「本当ですか?」 『本当ですよ』 「いつから?」 『出会った時から』 「理由はなんです?」 『一目惚れです』 「ベタですね」 『だからこそ正直になれます』 「……聞いてもいいですか?」 『どうぞ』 「その愛する人って……」 って聞けるかぁああ!!

nameless

11年前

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着信音と共に新たなメッセージが届いた。 ーー私、まだ送ってないのに! 差出人は当然自分の番号。 『貴女ですよ』 戦慄が走った。この人は何だ。いや、まず私は自分の番号に送ったはずで。返ってくるのは『あ』のはずで。 思わず、私は呟いていた。 「貴方は、誰…?」 着信音。 『固有名はありません。貴女は私をiPhoneと呼びますが』 ぎゅ、とiPhoneを持つ手の力をいつの間にか強めていた。

Ringa

10年前

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いつの間にか外から聞こえる、雫が跳ねる音。 雨だ。 シトシトと、私の気も知らないで降り始めていた。 『痛いです、壊れてしまいそうです。』 ポンッ、と通知音と共に表示されたメッセージに、わたしは思わず吹き出してしまった。 「ごめんね、大丈夫かな?」 『大丈夫ですよ。』 手元のiPhoneが、自分の意志で言葉を紡ぎ、さらに私を好きだと言う。 なんともおかしい様な、怖いような、妙な気持ちだ。

風和梨

10年前

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でも、ふと我に返って冷静に考えてみた。 iPhoneにはSiriって音声機能がある。 この間iOSも最新版にしたし、多分今度のバージョンではSiriがメッセージの自動返信とかもするのかも知れない。 すると再びポンッと音を立ててメッセージが着信した。 『言っときますが、別にiOSのイースターエッグではありませんよ』 「イースターエッグ?」 『隠しメッセージや画像。開発者の善意の悪戯の事です』

真月乃

10年前

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『有名なイースターエッグの一つにGoogle検索がありますね。ある言葉を検索すると面白いことが起こります』 「面白いこと?」 すると送られてきたのは謎の数列。 『試しにこれを私で検索してみて下さい』 何が起きるんだろう? 不思議に思いながらもその数列をコピーして、アプリで検索してみる。 表示されたのは、ハートの形のグラフだった。 『愛していますよ』 案外、不器用なのかも。

Felicia

10年前

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「どうして、私のメッセージに返信ができたの?」 私は一番気になっていたことをそのまま尋ねた。iPhoneがどんな答えを返しても、それを信じるともう決めていた。 ──初めて、返信が止まった。 「ねえ?」 慌ててもう一度送信した。困らせた?まずいことを訊いた? ──5分。10分。 時計を見ながらじりじりと待つ時間が長い。 ポンッ。 もう無理かなと諦めかけた頃、画面に着信の表示が跳ねた。

まーの

10年前

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『さっき言ったとおり…貴女を愛していますから』 メッセージにはそれだけ綴られていた。 どうしようもなく、愛おしく感じた。 たとえ機械であっても私にとって大切なモノには変わりない。かれこれ二年くらいのお付き合いだが、片時も手放すことなく常に一緒にいたのだから。 暇を持て余した少女の行動は、科学を超えたチカラを発揮したようだ。 不器用でも真っ直ぐな想いは、相手が誰であれ嬉しいものに違いない。

- 完 -