算数は得意だけど 0×5=0 という計算だけはよくわからない、 これはそんな小学生の少年の話です。
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0に5をかける、、、 0になにをかけても0って習った。 ないものはない でも、って思うんだ。 0に1をかけるのと 0に5をかけるのの違いは? 何がしたいんだ?
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算数は嫌いじゃない。 むしろ好きだ。 決まったルールに従って数字を当てはめていけば、解けない問題なんてない。 でも、僕は0×□=0っていうルールだけはどうしてもわからなかった。 いや、わからないって言ったら、ちょっと違うかもしれないけど。 0に何をかけても0になるなら、最初っから0に何もかけなければいいのに。
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「ねえ、お母さん。0にかけるっておかしいよねえ」 僕は、食卓で宿題をする手を止めて言った。 お母さんは台所で忙しそうに夕飯の仕度をしていたけれど、ふと顔を上げて僕を見た。 「どこがおかしいと思ったの?」 まだ疑問だらけでまとまっていなかったけれど、何故かするりと出た言葉があった。 「増やしたいなら足せばいいのに。なんでかけちゃうんだろうって」 お母さんはちょっとだけ上に目を向け、すぐに僕を見た。
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「0にかけるって考えるから分からないのかな、0が何個あるかって考えたらいいかもよ?」 どういうこと?と聞き返すとお母さんはカウンターの向こうで料理の手を止めた。 「あんたと百合ちゃんと正人くんと陽菜ちゃんと勝司くんがいるとするじゃない?」 僕の仲良しの友達の名前だ。 「2個づつお皿に飴を配ったら全部で何個? 」 「5人に2個だから5×2で10個」 「じゃあお皿に何もなかったら?式にしてみて?」
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「5人に0個の飴を配るから、、、」 そこで僕は考え込んでしまう。 「0個というのは、何もないのと同じなの! 配る相手が5人でも251人でも、結果は0になるのよ。だって、ない物はそれ以上配れないんだから」 なるほど、何と無く解ったような気がする。 「次に。増やしたいなら、足せばいいのに、という疑問。仮にお友達が5人じゃなくて、251人の場合ね。そのお友達に2個ずつ配った時の、たし算は?」
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僕は百合ちゃんと正人と陽菜ちゃんと勝司、お父さんやお母さん、近所のおばちゃんや学校の先生などがお皿を持っている姿を想像する。 その人たちに2個ずつ飴を配ると、 「2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2たすにーたす……うわ、もう無理」 折り続ける指を止めた。 「ご苦労さま。さて問題です。この計算を簡単にできる方法があります」 「わかった!かけ算だ!」
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「さっきは無理に感じた計算も、かけ算でやれば簡単に答えが出るの」 えーっと 251×2だから… 「わかった!502だね!」 「はい、よくできました。これで疑問は解けたかしら?」 お母さんは、ニッコリ笑顔で僕に問いかけた
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「そうか!算数って面白いな!」 僕がそう言うと、お母さんは僕の頭を撫でてこういった。 「わからない算数があったらなんでも聞いて?お母さん、算数のスペシャリストよ!」 それから10年が経った。 「お母さん!微分積分ってさぁ…」 「数学は無理!」 算数と数学って何が違うんだろう。
- 完 -