逃げないと。 本気で逃げないとヤバイ。 本能がそう物語っている。 「ショウちゃぁあああん!待ってぇ!!」 野太い声のピンクのワンピースを着た化け物が僕を追ってきている。 このままだと喰われる。 冷や汗と脂汗が毛穴という毛穴から滲み出て、心臓が爆発する勢いで警告の鐘をならしている。 とにかく逃げなきゃ!
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写真では可愛かったのに!チクショー! 野太い声のピンクのワンピースを着た化け物「里中真子」とはフェイスハックというサイトで知り合った。チャットで意気投合し、たった数日で近くのファミレスで会う約束したのだ。 奴と会った瞬間、意識がとんだ。 ふと、我に返ると俺は店の入り口に立っていた。本能がそうさせたのだろうか。ここは危険だと。 「ショウちゃぁぁぁん。待ってよぉぉ!何処に行くのよおぉぉぉ!」
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見た目から恐れをなした己の直感を今は信じ逃げ切ることに専念する。 後ろから諦めの悪い声が響く。 有難い事にこの辺りの地理は多少知っていた。 数メートル走り、角を曲がったすぐの路地に身を隠す。 「ショウちゃあぁん!もう!どこ行ったのよぉ!」 悍ましい叫びが通り過ぎるのを待つ。 あーなんでこんな事になったんだ! 昔からトラブルが舞い込みやすいとは思ってはいたが、こうも女(?)運が無いものか。
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「行ったか……?」 奴の姿が見えなくなった事を確認すると、急いで先程のファミレスに戻った。 慌てていたので走って出てきてしまったが、駐車場に車を停めたままだったのを思い出したからだ。 何とか奴に遭遇する事無くファミレスまで戻り、車に乗り込んだ。 「ふぅ、助かった。ったく、焦ったぜ。顔見て逃げ出したのは悪かったが、あれは流石に反則だろ。魔人ブウかよ」 「まぁ、ショウちゃんったらひどい!」 は?
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そこにいたのは魔人ブ...いや、里中真子と名乗る人物なる人が反対の車のドアを開け中をのぞいて立っていた。 「〜〜〜っ‼」 反射でアクセルを全開で踏んでしまうがエンジンさえかけてないのだ進む兆しすらない。 「あっ、えっ、さささっ里中さん」 「なぁに、ショウちゃんいつものフェイスハックみたいに真・子・さ・んって呼・ん・で」 僕が何をしたフェイスハック!どうしてくれるフェイスハック‼
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『戦争が起こっていた時代、捕まった敵の兵士達は、様々な拷問を受けていました。』 「そのレベルじゃねーぞこれ!」 走馬灯の様な学校での記憶にツッコミを入れて、エンジンをかけアクセルを踏んだ! タイヤから煙が上がっている… 笑おう。 「う、動かね〜。」 「何処に行くつもりなの?ショウちゃん♡」 『戦争が起こって…』 今が戦争だよ!てか今、奴が撃ったのは何だ?核か! 誰か!誰か助けてくれ〜!
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助けがこないってそんなことわかってんだよ… 例えるなら、今の俺は可哀想な羊だ!見た目は日サロ通いで羊とは真逆の色黒だけど! 「これは夢だ夢だ夢だ夢だぁぁーっ」 里中真子は助手席に入ってきた。 「なによ、まだ会って10分も経ってないのに照れるじゃない♡」 この世の世界の終わりを迎えた気分だった。 奴の顔が拳一個分の近さに来たんだ。
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「うふ、ショウちゃん。思った通りイケメンねぇ〜」 あたし、男を見る目はあるのよ♡ とか言われても知らねえよ!誰だよ!本当の真子さんを返せよ!なんて現実逃避をしても状況は一向に変わらない。 顔を引きつらせながら笑う。 「さ、里中さん?僕、急用を思い出して…」 「あらやだ、一ヶ月何も予定ないって言ってたじゃない」 なんでその情報この人に開示したんだ!後悔に襲われる。 「あの!顔が、近……っ!」
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と、思った瞬間。 「ブーン!」 車のアクセルを踏んでしまい 動かなかった車が嘘のように動いた。 「あら。」 里中さんの見ようにも見られない顔が 遠のいた。 里中さんは何を思ったか車を降りた。 僕が息をなでおろした時、後ろから 「ショウちゃぁぁぁぁん!」 と醜い声が聞こえた。 別の車で僕の車を追いかけてきたのだ。 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 みなさんもフェイスハックなどには 気をつけて。
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