ぼくの好きなミレイ

ぼくのなまえは、 ディートリッヒ=ノーマン。 としは9才と6ヶ月。 だいぶ太めのおとこのこだ。 ぼくはいま好きな子のことで なやんでる。

おやぶん

10年前

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好きな子のなまえは、 ミレイ=ヴァンウッドセン。 ひとつ年上の女の子なんだ。 ミレイはとてもきれい好き。 だからミレイの持つぶんぼうぐは、みんなかわいいし洋服もきれい。 そしてミレイのまわりにいる友だちも、きれいな子ばかりなんだ。

10年前

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ぼくがそんなミレイに話しかけられないでもじもじしていると、となりの家のディンガー=ベルクマンがせせら笑うんだ。 「おまえみたいなローリー・ポーリーなんかにかわいいミレイがふり向いてくれるとでも思ってるのかい?そんなのばかげてるさ」 いやなやつだ。あんなにんじんなんかライン川に落っこちちゃえばいいのに!だけどほんとうにミレイがぼくのことをきらいだったらどうしよう。

10年前

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ぼくは太ってるし、 じぶんがきれいだって思ったことなんかない。 だけどぼくはミレイに好かれたいんだ。 ある日ぼくは思いついて、 マーベリック先生にそうだんにいった。 「ミレイはぼくのことをどう思ってるの?」 「ミレイに好きになってもらうにはどうしたらいい?」 マーベリック先生はわらってこたえた。

まーの

10年前

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「ミレイの気持ちはミレイに聞いてみなきゃわからないわ。ミレイのことを好きなら、彼女のために出来ることを精一杯頑張りなさい。だけど、ミレイがあなたのことを好きになるかどうかは、彼女の自由であって、あなたがコントロール出来ることではないのよ。それに、あなたはどうしてミレイのことが好きなの?」 「ミレイはぼくが欲しいものを、なんでも持っているから。ぼくもミレイのようにきれいで特別な人になりたいんだ」

sabo

10年前

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「じゃあ、ミレイがあなたを同じように思ってくれるにはどうしたらいいと思う?まずは自分を好きになることよ。努力は、自信に繋がるの」 先生はほほえんでそう言って、どこかへ行った。 努力ってなに? 痩せること?それとも、自信のあるふりをしてミレイと話すこと?… 家に帰るとママがまた得意料理をたくさん作っていた。ぼくの食べる顔を見るのが、ママの幸せって知ってる。 でも「いらない」って、初めて言った。

jojo

10年前

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ママは、驚いて、悲しそうな顔をした。 「どうして?あなたこれが大好きでしょう?」 確かに僕はオートミールパイが大好きだ。けど、それよりもミレイの方が好きなんだ。 「僕は、僕を好きになりたいから。」 僕は、うまくママに伝わったか分からないけど、小さく微笑みながら言った。 「あなたは今のままでも素敵よ?」 ママは優しい声で僕に言った。

noname

7年前

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僕はその日のオートミールパイを半分だけたべて、それから今思っていることをママに全部話した。 ママは僕の話をちゃんと聞いてくれて、次の日から、オートミールパイを作る回数をへらしてくれた。 そして僕は、毎日、ミレイにあいさつすることにした。ディンガー=ベルクマンに冷やかされても気にしない。 少しずつ僕が僕を好きになってきた頃。 だいぶ太めのおとこのこは、ちょっと太めのおとこのこになっていた。

7年前

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ある日、先生を手伝って資料を運び終えると廊下の向こうからミレイが近づいてきた。 「いつも優しいのね。お手伝いお疲れ様」 ぼくはドギマギしながら答えた。 「あ、ありがとう」 「名札の名前はディートリッヒ。ねぇ…ディーって呼んでもいいかしら?」 「…ど、どうして?」 彼女は微笑むとこう言った。 「あなたと仲良くなりたいの」 彼女は綺麗な手を差し出す。ぼくはその手をしっかり握り返した。

7年前

- 完 -