ストーカー
明日香はどのように彼を殺害するか考えていた。
最近、メールを返信しない彼。
話もしない、彼。
しかし、明らかに明日香は病的といっていいほど狂っていた。
彼、といっても彼氏ではないのだ。
無論相手は明日香の事を知らない。
明日香は、彼が好きだ。
しかし、あまりの好意さゆえに、幻想化してしまったのだ。
"彼と付き合っている"と。
明日香はまるで何者かに取り憑かれたように彼を見つめていた。
- 1 -
「───ええ、今日も交差点の向こうに、はい、微動だにせずって感じで。はい、私は気がつかないように振る舞ました」
話しが終わり携帯を切ると長くため息を吐いた。電話の相手は警察だった。遭遇した日は報告の電話をする。
見られている気はしていた。
俺が電車を降りると向かいのホームから、交差点では反対側から。
休日に俺のマンション前にいたことで俺は確信した。
この女はストーカーだ、と。
- 2 -
見られてるだけなら警察に通報しない。
帰宅してポストを見ると、あの女からの手紙が山ほど。届いていた俺あての手紙は、全部開封されていた。
どこで調べたかわからないが、メールが一日何通も届く。拒否をしてもすぐに別のメアドから届く。
【前世から貴方を見ていました。】
手紙やメールの内容がオカルトまがいになったとき、取り殺されるという恐怖心が芽生えた。通報して接近禁止令が出てからは、届かないが。
- 3 -
―どうしても、貴方が私を拒絶するなら
いっそ壊してしまいたい。
そして貴方の隣で死ぬの。
ロマンチックでしょ?
大丈夫、来世ではちゃんと結ばれるわ。
それが、私達に約束された"運命"なんだから。
―でもそれは最終手段。
「ショックを与えれば、思い出すかしら」
明日香は真新しい出刃包丁を、通学鞄に忍ばせた。
- 4 -
明日香は高校生だった。学校でほとんど友達もいない、目立たない生徒だ。
そして、明日香の想い他人は社会人だった。
その日、学校から帰ると、いつもの交差点に立った。人通りは少ないし、彼はここを通らなきゃ家に帰れない。
確実に触れ合うことが可能だと明日香は思った。今までは遠くから見るだけだったけど、今日は真横まで行って首を掻き切るの。
思わず笑みがこぼれる。
しかし彼は来なかった。
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彼のマンションを訪ねると、部屋の郵便受に粘着テープが貼ってあった。
「そちらの部屋の人? 引越されましたよ。実家に戻るとかなんとか」
調べても、彼は見つからなかった。突き止めたメールアドレスもすでに解約されていた。
──彼の実家。
明日香は彼の従姉妹を装い、彼の会社に電話してみる。彼の上司をつかまえ、うまいこと彼の実家の情報を聞き出せた。さすがに詳細まではわからなかったが、最寄駅は突き止めた。
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明日香は週末になると、ありったけのお小遣いを持ってすぐさま電車に乗りこんだ。
3回ほど乗り換え、鈍行列車で片道2時間。
決して近くはないが、彼のことを考えていたらやがて到着した。
駅を出ると、田植えを終えたばかりの田んぼが広がっていた。
ここからは人に聞きながら彼の実家を探すしかない。
しかし、明日香の心は高揚していた。
まるで結婚の挨拶をしにいく婚約者のように。
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そうして胸をドキドキさせながら、道行く人に話しかけていく。
みんながみんな訝しげな顔で話を聞き、それでも親切に彼の家への道を教えてくれる。
教えられた通りに進むと、草木が生い茂る道へと着いた。こんなに自然豊かなところで彼は育ったのかと、なおも心躍らせている明日香。
道に迷ってはいけないからと、最後に近くを通りかかった人に再度確認すると、ここからは一本道だから迷う事はないと教えてくれた。
- 8 -
真っ直ぐ歩くだけ。
真っ直ぐ歩くだけで彼に会えるんだ。
明日香の心はときめいていた。
会えれば。
会えさえすれば。
殺せるんだ!
明日香は立ち止まってニンマリする。
彼の実家を見つめる。
地方によくある普通の農家のようだ。
「よくここまで来たね?」
彼の声が背後からして振り返った。
グサッ!
と刃物の刺さる音。
俺は女の死体を見ながら思った。
「逆ストーカー殺人、今回も成功したぜ!」
- 完 -
作品情報
ストーカー
#10787
- リレー期間
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2年6ヶ月