「……という訳なんだが」 「どういう事だし⁉」 説明を受けたけれど、今の私には全く理解できない。 このような状況を、誰が理解できようか。
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とりあえず落ち着こう。私は大きく息を吸い、吐いた。すー、はー。よし、落ち着いた。 で。 「どういう事?」 もちろん聞こえなかったわけではない。言葉の意味がわからなかったわけでもない。ただ単純に、彼がそんなことを頼んできた理由が知りたかったのだ。 だって、どう考えてもおかしいじゃない。突然見知らぬ男から声かけられて、しかもそこで愛の告白ならまだしも、なぜに人生相談⁉しかも助けてくれとか‼
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「いま話した通りだ。どうか助けていただきたく」 男は不遜にそう繰り返すだけ。あまりに自信たっぷりなその態度に、自分のほうが間違っているんじゃないかと思うほどだった。 「えっと、あなたからのお願いは理解しました。でもなぜ見ず知らずの私が?」 私はそう尋ねずにはいられなかった。
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「君は見かけ通り鈍感だな!ラジオや子ども相談室、Yahoo!知恵袋、何だっていい!何故みんな相談すると思う?あまりに深入りしたような、綺麗事で済まされないような悩みは第三者に吐き出した方が後腐れもなくスッキリするからだ!」 男が熱弁を振るえば振るうほどに、私は関わり合いになりたくないと言う気持ちが強まって行った。もう遅いかも知れないが。 「そ、それにしたって、私には荷が重過ぎますからっ」
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思わず顔が引きつってしまったが、かぶりを振りつつ、うまく断った……つもりだった。 「いや、ですから私としてもこの悩みを解決出来るのはあなたしかいないと思ってるんです」 会ったばかりなのに何処からそんな自信が湧いてくるのか。 「しかし、こう見えて私も結構忙しいですし」 どう見えてるんだろう……。 って、そんなことはどうでも良い。 問題なのは、こんなやりとりが既に一時間近くも続いてるということだ!!
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もう、いい加減ウンザリして来た。 なので、相手するのを辞め、来た道を早足にもどった。案の定、同じ速度で話しかけながらつきまとってくる。 しかも、叫びながら。 『きみ!助けてくれと、懇願してる人間をそう無気に扱っていいと思ってるのか⁈そんな事では親御さんが悲しむぞ!』 全く訳が分からない。しかも、都合の悪い事に近くで事故があったようで、周囲に人集りが出来ており、その衆人の注目の的になってる。
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「ちょっと!大きな声出さないで下さい! 無理です!恋人役だなんて!どうして見ず知らずの私がやらなきゃいけないんですか!」 そう言う自分の声がつい大きくなる。 男も、周囲の視線を感じたのか小さな声で 「見ず知らずだからだよ。私の知り合いだとバレる危険があるからね。それに、あまり冴えない私には君がお似合いだと思うんだ。君もそこそこ美人だしな!」 (ちょっとそれ、どういう意味よ!!!!)
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「見つけましたよヤスヒロさん」 ここで突然人だかりの中から美人さんが登場。男はなにやら慌てた様子。 「さぁこの書類にサインを」 「ま、まってくれ!言っただろ俺には若い恋人が居るって、この娘その恋人だ」 男は私を指差す。はぁ? 「えっ、それは本当ですか?」 私に詰め寄ってくる美人さん。イヤイヤ。 「わかったかい?これでキミとの婚約は破棄だ。そういう約束だっただろ」 得意気な男。おいこらちょっと待て。
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こいつ!女の敵だ!美人さんが可哀想!思った瞬間、脇腹にドライアイスを押し付けられた感覚が走り、美人さんの血走った目と合った… 「お願い…消えて」 え? ドライアイスは痛みになり、周りが暗くなって… 「お願い!あの女捕まえて!「お願いです!119番を「お願い!」」」 「お願い!智ちゃん!お母さんを遺さないで」 皆んな…そんなに…お願い…ムリだよ… そうだ…私も、 「神様…お願い…私、まだ……
- 完 -