コーンポタージュ・サボタージュ

原因は未だ不明のままであるが、その事件は多くの人々にささやかな驚きと失笑をもたらした。

その日、世界からコーンポタージュが消えた。

正確にはすべて水となった。ただの一滴も残すことなく、だ。噂によるとコーンポタージュは現在世界のどこかでブクブクと湧いているらしいが源泉は確認されておらず、また噂の源泉も不明瞭だ。

"コーンポタージュ・サボタージュ"

この事件を我々人類はそう呼称した。

歴生
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かといって、俺達の生活に大した影響はない。自販機のコンポタ缶がコンソメスープに代わったり、インスタントコンポタを作っていた会社が倒産したが、つまりそれだけだ。
コンポタが無くったって地球は廻る。

けれど今、俺は旅に出る準備をしている。噂に聞くコーンポタージュの泉を探す為にだ。

別に俺はコンポタが好物ではない。
けれど言ったんだ、余命1年の弟が。
コーンポタージュ飲みたい、って。

構造色
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近所のおじさんには、コーンポタージュのいずみなんざ探しに行っても見つかる訳がねぇ。あんなもんはただの噂だ。
なんて言われたが気にもとめず、着々と準備を整える。

思えば以前山で遭難した友人が、救助された時
「見間違えじゃない、俺は確かにコンポタの泉を見たんだ!」
と必死に訴えていたが周囲の者は皆笑い飛ばして聞こうとしていなかった。

今から、以前友人が遭難したという山に向かおうと思う。

小恋留
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弟のために、必ずコンポタを持ち帰るぞ。

自分自心に喝を入れ、早速家を出た。
後ろで近所のおじさんが、絶対みつからねぇとか、お前はアホだとか喚いているが気にしない。俺は弟のためにやるって決めたんだ。


数分街中を歩き続けると、段々と田舎に差し掛かり、目的の山はもう目の前に見えて来た。
俺は足早にその山の麓に向かうと、なんだか知ってる匂いが……。

コンポタの匂いか?

灰_
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まさか! と降って湧いた奇跡を信じきれないまま、匂いのする方へ走った。近づくほどコンポタの匂いが強くなり、懐かしい味が口の中に蘇ってくる。芳しい匂いを元に走り続けて、俺は見つけた。
小さな泉が湯気を立てて、ぽこぽこと黄金色の水を生み出している。

やった……、俺はやり遂げたんだ!

どさっと泉の前に座り込み、震えながら持参したコップでコンポタを掬い上げる。ごくり。

「……味がしない」

U30
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香り、色、食感どれをとっても思い描くそのままだ。なのに味だけがまるで無味の水を飲んでいるかのようだ。
俺は力が抜けてへなへなと立てない。
ここにきて振り出しに戻るなんて。こっからどうすればいいのか、もはや完全にお手上げだ。
「ごめん……」
脳裏に浮かんだコンポタを心待ちにする弟の姿に謝罪が漏れる。
悔しくて頬から涙がこぼれた。諦めきれない。俺は腰に下げた何十本のボトルに汲めるだけ汲んで山を降りた。

12unn1
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家に着いた俺はコーンポタージュの前で考え込んでいた。
このまま弟に渡すわけにはいかない。どうすれば…。

そうだ!俺が味をつければいいんだ!

俺は台所からありったけの調味料を掻き集め、鍋にぶち込んだ。
これまで、人々はコーンポタージュなんか湯を入れるだけで飲めるもんだと思っていた。その軽率さがコーンポタージュ・サボタージュを呼んだのかもしれない。

しかし…。
「おかしいっ!こんな味じゃねぇ!」

kam
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これは俺が知っているコーンポタージュじゃない。
それと同時に、もうあのコンポタにはありつけられないという敗北感が俺を襲った。

「くそっ!」

思い切り地面に拳を叩きつけると目から涙が溢れた。
散々近所のおじさんに馬鹿にされたあのとき、コンポタのために捜索したものの見事失敗に終わったあのとき。
弟のために乗り越えてきたというのに。最後の最後で俺は……!

「お兄ちゃん、もういいよ」

ななな
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「俺の為にここまでやってくれただけで嬉しいよ。お兄ちゃんが命懸けで作ってくれたこの一杯、大事に頂くね。あれ?」
一口飲んだ瞬間、弟が目を見開いた。

「コーンポタージュだ…」

人々が料理に込める愛情は馬鹿にできない。近頃では素手で握ったおむすびを嫌う風潮もあるようだが真心こそが手料理の何よりの旨味、なのだ。
弟の病気は完治した、なんて奇跡は起こらなかったが今日も俺は誰かの為に
コンポタを作る。

Savon
- 完 -

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