私は、『普通』に生きたい。
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しかし、『普通』に生きるのは、案外難しいことである。 私はいつも失敗してしまう。『普通』に生きるって、大変。 私は高校生だ。高校生は忙しい。勉強も訳がわからない。義務教育ではないのだから、できればやめたいのだが、そんなことしたら『普通』からはずれてしまう。 私は『普通』に生きたい。なぜなら、『普通』にさえしていれば、誰にも文句は言われないからだ。
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『普通』にさえしていれば、誰の興味も引かずに済む。そして平安を手に入れる。 『普通』はその時の平均か、もしくは多数派だ。そこが事態を複雑にしている。 うちの学校の女子と言うと、所謂ケバいギャルが大多数をしめている。何をするにもダルそうな。だから私もそれに倣った。そうしたらうっかり教師の注意を引いてしまった。運悪く。 みんながやってる、アレに手を出して、現場を抑えられてしまったから。
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そう、最近うちの学校で流行りのアレ。 『wちゃん』と書いて『わらちゃん』と読む。 藁人形の『wちゃん』を作り、嫌いな人の名前を書いて、五寸釘で体育館裏の銀杏に打ちつけると、『wちゃん』がその人を不幸にしてくれる。 おまじないというにはちょっと過激。 最近の女子高生がやるにはちょっと古風。 でも皆が『普通』にやってる『wちゃん』。 だから私も『普通』になるために、体育の坂口先生でやってみたのだ。
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別に坂口先生に恨みがあるというわけではなかった。 私は『普通』になりたかったからそのおまじないを行っただけ。 でもそれは私の問題で、『普通』のみんなは彼に恨みを持っていた、ということである。 のだが。 それだけのことだったがバレた。 何だかよくわからないことを関連づけながら彼は怒っていたが、私が反省していると見たのか割と早く怒りは静まったようだった。 実際には失敗して沈んでいるだけなのに。
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やっぱり一発本番ではうまくいかなかった。かと言って練習は出来ない。この失敗を分析して次に備えるしかない。 そんな感じの事を、最中に考えていたのだ。 坂口先生でやるのはもう危険だった。 死ぬなら未だしも、不幸になるだけなら直ぐに私が怪しまれるに決まっている。 誰にも疑われず、『wちゃん』を済ませなければ。 私の、『普通』の学生生活の為に。 早々にその日の夜中、私は再びあの銀杏の場所へ来ていた。
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しかし、そこに銀杏の木はなかった、、、 そして私はそこにあった死体を見て、一瞬心臓が止まりそーになった、、、、、、
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何これ…これじゃ『普通』に事が進められない。それに死体?学校に?こんなのおかしい、『普通』じゃない。 私はその死体に歩み寄った。よくよく顔を見てみればそれは変わり果てた坂口先生ではないか。 「…うそ」 私は思わず誰もいないのにそう口にした。そうだ警察…制服の胸ポケットからスマホを取り出そうとし、 その手が血まみれの手で制されるのを黙って見ていた。 「お前か?」 こんなの『普通』じゃない。
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「銀杏の木は?」 私は血まみれの手の主に訊ねる。その手は、生徒会長の西垣だった。 「wちゃんのおまじないは俺が作った。少しいたずらしてみたかったんだ。憂さ晴らし?少しのつもりが噂がでかくなって」 西垣の目は『普通』じゃなかった。狂気に満ちたもの。冷たくて悲しくて怖い。 「銀杏の木は坂口が処分したよ。せっかく面白くなるところだったのに。お前が坂口を消すところが見たかったなあ」 『普通』ってなあに?
- 完 -