花鳥風月と星、人

〜第一の生き様〜 私は花だった 百合とか薔薇とか、そんな綺麗なものでもはなく名前さえもない唯の雑草だった 白い小さな花が咲いてるだけ 人は目もくれず通り過ぎるけど、色んな人の嬉しそうな顔を見るのはとても楽しい 犬なんかは時々匂いを嗅ぎに近くに寄って来てくれる そのおかけで飼い主が私に気づき、かわいい花ね。と言ってくれると嬉しい 小さな花だけど、枯れるまでは綺麗に咲いてやろうと思うのです

ハイリ

13年前

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〜第二の生き様〜 私は鳥だった 特別貴重な種でもなく、かといって誰でも知っているような名前でもない、小さな鳥 下を向いてばかりの人間たちは気づかないけれど、時々空を見上げた人が見てくれる時は少し照れるけれど嬉しい 「きれいな空」 そう言われる空で飛ぶのは気持ちがいい その空で飛ぶ自分も“きれいな空”の一部になれるから 目を向けられる事は少ないけれど、精一杯翼を広げて飛んでやろうと思うのです

Iku

13年前

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~第三の生き様~ 私は風だった 春一番とか北風とか四季折々の風ではなく、人の頬の高さ程をそよそよとそよぐ名もなき風 時折り少女達の前髪をそよぎ、彼女達の笑顔をより一層キラキラと輝かせられると嬉しい 小さな花をそよぎ、小鳥の翼をそよぎ、少女のおデコにそっとキスすると、誰もが心地良い風ねと笑顔になってくれる 誰の目にも見えないけれど、全てを優しさで包み込む、そんな風でありたいと思うのです

真月乃

13年前

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~第四の生き様~ 私は月だった 白き輝きを放ち、日によって姿形を変える気分や 人は私が丸く頬を膨らませると喜ぶ 私に似せた団子やハンバーガーを掲げてくれると、遠くにいながら親しみを感じる 最近では私の光も陰ることが多くなった 電気が明るすぎて私とかぶるのだ それでも電気の届かない場所はまだ多い 電気は憎いけれど、時々は頬を膨らまし、私を必要とする人の闇夜をそっと照らしてやろうと思うのです

aoto

13年前

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国語の教科書に載っている、作家四人による連詩。これが彼を悩ませていた。 新任の国語教師、城崎。 中間テストの範囲に入るこの詩の解釈。城崎の見解は、指導書とは異なるものだったのだ。 まだ若い教師である城崎は、枯れて全てを諦めきった他の教師陣とは違う。メラメラと熱く滾るものが、へその奥から胸を炙っていた。 自分の解釈を生徒たちに伝えたい! 一種のエゴだ。それはわかっている。

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まあまあ、と宥めるように同期である彼女は苦笑を浮かべた。 同僚の年配の国語科教師達は今日も見て見ぬフリをしている。 彼女も内心面倒だと思っているに違いないと分かってはいたが、それでも納得出来ないものは出来なかった。 「城崎先生、私は国語に正解なんてないと思うの。赤と言っても思い浮かぶ色は人それぞれのように、悲しいなどの安易な言葉で感情は表せないと思う。」 それを聞いて、彼女もまた熱い人だと知った。

ムラサキ

13年前

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〜第五の生き様〜 私は星だった。 一等星なんて明るいものではなく、四等星以下の小さな小さな明かり。 見つけてもらえないほどの小さな明かりなんて!存在意味の無い小さな私、早く消えてしまえと星に願う。 でも、 ずっとずっと下の方、大きなレンズを覗いて私を見つけた彼が嬉しそうにするから。名前をつけてくれたから。 だからもう、星に願う事はやめた。

nona

13年前

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城崎は第五の詩を作り、教科書のそれに付け足した。 一つ一つ、それぞれは、大勢にとっては目立つものでも特別なものでもありはしない。 しかし、すぐそばにいる者にとって、それは何よりも大切で、かけがえのないものだということ。 例え大勢のなかの一人だとしても、 一人一人が、唯一無二の、自分 と言う特別な存在であると言うこと。 この連詩を通して、それを知って欲しい。 それが城崎の解釈だった。

Michel

13年前

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〜第六の生き様〜 私は人だ。 取り立てて知力、容貌が抜きん出ることはない。 才能に恵まれてる訳でもないが、目前に困ったり、悩んでいる者がいたら自ら手を差し伸べられる人でありたい… そこまで書き進んで、倉田香織はペンを止めた。 教科書の詩を読解し、自分も詩作する国語授業。 城崎の授業は熱苦しくて辟易だが、今日は素直に言葉が入り込んできた。 将来、ああいう先生になってみたいと思い始めた。

黒葉月

13年前

- 完 -