斜陽の騎士

「へえ。あの男、腕が立つと思ったら剣士だったわけかい。で、旦那はそいつを旅の共にしたいと。だがそいつぁやめといた方がいいな。あれはダメ人間さ。生ける屍、みんなそう呼んでる。………それでもとりあえず会いたいと?物好きだねぇ、旦那も。ところでどこへ旅する気だい?まあ俺には関係ねぇことだが。酒場へ行けばいい。ここから少し東へ歩いたとこさ。年がら年中ほっつき歩いてるが、探すとしたらまずそこだ」

夏草 明

11年前

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──酒場にて。 「ふぅン。そうかい行商人に言われて来たのかい。そうさね…暇さえあれば一杯引っ掛けに来るような昼行灯のボンクラさ。剣の腕前は確かみたいだし、それなりに武勲もあるらしいけど。でも生気が感じられないって巷の噂はウソじゃないよ。……ははぁン、その目は疑ってるね?じゃあ町外れの教会に行ってごらんよ。事情通のお客によれば、軛を断ちたいとか何とか神父に頼み込んでるって話だ」

おやぶん

11年前

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ーーー教会にて。 「ふむふむ、なるほど。で、ここに来たというわけですね。悪いことは言わない。あの男には関わらない方がいい。いつも酔っ払って来ては同じ事を何度も何度も…。やけに剣の腕が達者なもんだからウチのシスター達も怯えてしまってね。色々抱えているものも大きそうですし…、ん?いやいや、独り言ですよ。たぶん今は診療所だと思いますよ、腕を怪我してたんでね。……貴方に幸あらんことを、アーメン」

317

11年前

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ーーー診療所にて。 「あぁ、あの男なら、ついさっき出て行きましたよ。腕にかなり深い怪我を負っていましたから、しばらくは安静にしておいた方がいいと言ったんですけどねぇ…。俺にはもう残された時間は少ないんだって……。そうですねぇ…。まだそう遠くには行ってないでしょうし……。ここからちょっと西へ行ったとこに人が大勢集まる広場があるんですよ。そこで聞き込んでみては?あの男もちょうどそっちへむかったので」

Bullet

11年前

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ーーー広場にて 「その男の人ならここには居ないよ。様子かい?覇気が無い感じだったけど、あの王様の銅像を見るなり、急に復讐してやるとか怖い事言い出してねぇ…。近寄り難い感じだったよ。そういえば、お腹が空いていたようだったから、近くの市場を勧めてあげたら、何も言わずに行っちまったよ。市場に知り合いがいるからその人に聞いてみると良いよ」

Dr.K

10年前

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——市場にて。 「ええ、その方ならついさっきいらっしゃって、こちらで果物を買っていかれましたわ。 お腹が空いてらっしゃるご様子でしたので、果物だけで足りるのか、と尋ねましたら、俺には食べ物など必要ない、とおっしゃるだけでした。 その方? 確か、東の方に向かわれましたわ。東には霊園しかないのですけれど。 あら、あなたもそちらに行かれるの? ……なら、その前に。この熟れた林檎、お一ついかがかしら?」

ゆいも

9年前

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ー霊園にて 「ここあ、霊園だべ。安らぎの場。陽気を纏った奴が来る所じゃねえやな。参拝?。おめぇの知人は此処にゃいねえよ。墓守だもの、墓の事ならなんでも分かる。この所、飯にありつけてなくてな。口が悪いのはそれが理由だ。元々ってのもあるだども。…林檎。オラに分けて下さるってか?。…ありがとよぉ。 おめぇの大事な知人は此処にゃいねえ。おめぇが知ってる。 最後に出会ったその場所は?。…間にあえよ」

9年前

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霊園の門をくぐる時に、男の残り香が鼻腔を掠めた。振り返るが男は居らず、しかし俺はある情景を追想していた。 ——望楼にて。 「嘗ての円卓の騎士も、今や行く当てもない流浪人か」 それは酒瓶を傾ける男の背に久方ぶりに突きつけた文句だったが、此方を見向きもしない。 「復讐の鎖に繋がれて不自由か?」 街を斜めに染める夕影は、あの日のまま変わらない。 「王政復古の代償が許せぬのか?」 俺は剣を抜いた。

唐草

9年前

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「腕の傷は魔の者に付けられたか。呪いのままに生気を失い、人ならざる者に変わるのか?お前の体はまだ空腹を感じているのに」 俺は熱を込めて男の背に呼びかけた。 「その手の果実で自らの体を潤せ。そして俺と共に来い──アーサー王!」 男はゆっくりと振り返った。 その瞳は沈みゆく陽光に濡れ、鈍い輝きを放っていた。 「剣を取れ。王の名の元に」 かつて大魔術師と呼ばれた俺の手の中で、王を呼ぶ聖剣が煌めいた。

まーの

9年前

- 完 -