Herd Farewell ─さらば群れよ

「あたし、面白いギャグとかも言えないし、TVのネタをふられてものれないし、服とか、流行も興味ありません。でも、それで、いいと思ってます。 けどこの学校って人と違わないようにとか、流れに逆らわないようにする人ばかりじゃないですか。 あたしはイジメを受けても、そんな人達と無理して一緒になるよりはマシです。」

12年前

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彼女は自己紹介でいきなりそんなことを言った。当然クラスはざわつくし、先生も困惑していた。 アメリカ帰りの帰国子女だからか。転校一日目なのに。私が思ってると、リーダー格の女子、未央がバカにしたように言った。 「あんたさぁ、いじめられたいわけ?究極のドM?」笑い声が広がる。 転校生は無視をして、空いた席に座った。不運にも私の隣だった。 その日の夜、未央からメールが来た。 あいつをいじめよう、と。

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「もちろん♪いいよ。なんなんだろうね、あいつ。それに最近アクションがなかったし、いい暇つぶしになりそそうだしね。」 私は迷うことなく、送信のボタンを押した。 迷うことなんて出来ない。 だって私は未央の友達だから。 誰になんと言われようが、私はあの子の友達だ。 だから、彼女に無性に腹がたったのかもしれない。

12年前

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落ちていた犬の糞を、彼女の椅子の上に置いた。彼女は座面の糞に気付くとチラリとこちらに眼をやった。私たちはニヤニヤしていたが、彼女は表情をかえなかった。 「香苗やるじゃん」 未央が嬉しそうに言う。未央が笑ってる、ああよかったと私は胸を撫で下ろす。これでまだ未央と友達でいられる。私が標的になることはない。 それでも彼女の口の僅かな動きから私は眼を離せなかった。 「そんなにしがみつきたいの?」

yuzu0905

12年前

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図星をさされて自分の目が一瞬泳いだのがわかった。 ここで、開き直るか反撥するか。 反撥したら彼女の思うツボ、開き直る事にした。 そうよ、しがみついてるの。あんたは怖さを知らないだけなんだから 憐みを込めたつもりの目で彼女を見返した。 彼女は鞄から出したティッシュで犬の糞をつまみ私の机の上に置き、何食わぬ顔で椅子に腰掛けた。 周囲からドッと歓声が上がった。 頭に血が上った。

Noel

12年前

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「なに人の机に犬の糞おいてんのよ!」 私は怒鳴ったが彼女はさらりと 「その言葉そのまま返すよ」 カチン。腹が立つ、この女。 「私が置いたとでもいうの!?だいたいあんたの場合は椅子の上でしょ!」 「そんな屁理屈いらないの」 周りの歓声が一層大きくなる。彼女は立て続けにいった。 「あんた達のやっていることは間違ってる」 その言葉が心に刺さる。私が黙っていると未央が急に立ち上がった。

パンダ

11年前

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「香苗…あんた最低。この子があんたになんかしたわけ?ほんとあり得ないわ」 突如聞こえてきた声に耳を疑う。 バッと振り向くと、未央は嫌なものでも見るかのような目つきで私を睨んでいた。 「私…香苗がいつも誰かを虐めてるの止められなくていつも辛かった」 何言ってるの…? 余りの衝撃に言葉も出ない。さも自分は被害者だと言わんばかりに言う未央は、私の知っている未央ではなかった。 「香苗、謝りなよ!」

haco

11年前

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頬に熱い衝撃が走った。 未央は私に近づき、ぱん!と平手を張ったんだと分かった。 私は、頬を押さえて、座り込んだ。 ざわざわしていた教室は一気に静まり返った。 「聞こえなかったの?」 しんとした教室に彼女の声が響いた。 未央が彼女を振り返る。 未央の考えてることが、手に取る様にわかる。 私は未央の友達、だから。 「あんた達のやっていることは間違ってる」 彼女は同じことをもう一度言った。

asaya

11年前

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数週間が過ぎ、夏休みがそこ迄来ていた。 未央達の新たな標的になった私は孤立し、屋上の隅で毎日泣いていた。 ふと気付くと隣に彼女が並んで座っていた。 「…あなたは、独りになるのが怖くないの?」唐突に私は尋ねていた。 「あたしは独りではないもの。親、先生、マジで話せる友達だっている。香苗もそれに気付けば、あんたは誰よりも強く、優しくなれるよ」 そう言って彼女は塩飴をくれた。 塩っぱさが心に沁みた。

真月乃

11年前

- 完 -