とある男の仕事

仕事から帰宅し、いつものようにひとり夜ご飯を食べながらTVを見る。 見慣れたCMが次々流れる。CM中はあまり画面を見ないので箸のペースが早まる。 『僅かな負担でガッチリサポート!新しい医療保険、"信太くん21"誕生!』 俺の名前じゃないか、と信太が画面に目をやると、箸を落とし、固まった。 俺だ。 スーツ姿の俺…いや、俺にそっくりな男?が保険のCMに出ている。 『お問い合わせは0120…』

Midvalley

13年前

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まさか自分のはずがない。たまたま似た俳優が出演していたのだろう。 テレビ画面は別のCMに切り替わっていた。俺はご飯をかきこむと、手元の新聞を開いて記事をざっと流し読みしていった。 紙面を何ページかめくったあと、信太はあっと声をあげた。 「信太くん21登場!」 俺、いや、よく似た俳優が今度は新聞広告でポーズをとっているではないか。

coco

13年前

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「よく似た」なのか? なんだか不安にかられて来た。 この保険会社には、彼女の夢子が務めているはずだ。 電話を取り電話帳から通話する。 『こないだは撮影ありがとうね』 と、第一声が‥思わずなにもいわずに切ってしまった。 な、なんなんだ! 冷静になれ、俺、CMも広告も俺なんだ! でもまるで記憶がない。 思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ

バーバラ

13年前

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必死に記憶をたどっていると、玄関のチャイムが鳴った。 男が立っていた。俺のマネージャーだという。 「信太、テレビの特番決まったからな!これから忙しくなるぞ〜!」 そいつは、満面の笑みをうかべて、俺の背中を叩いた。 10分後、俺はこいつの運転する車の中にいた。これから、雑誌の撮影だそうだ。 一体、どうなってるんだ? 思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ

恒太郎

13年前

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って記憶にねー‼仕方なく俺はマナージャーの男に話を聞いてみる。 「あの…マネージャーさん」 「なんだよ改まって俺のことは貴洋って呼べって言ったのに」そう言って豪快に笑う彼は悪い人ではなさそうだ。 「俺はいつCMを撮影したの?」 「おいおいどうしたー?ちょうど1ヶ月まえだろーあの時、信太すごく嬉しそうだったじゃないか」そしてマネージャーはまた笑った。嬉しそう?俺が?ますます意味が分からなくなった。

銀色桜

13年前

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朝も早いので道は空いている。車は間もなく都内のスタジオに到着した。 「マネ…いや、貴洋、やっぱり人違いじゃないか?俺はただの公務員なんだ」 「信太、しっかりしてくれよ?確かに今度のオーディションのために、お前が平凡な公務員の役づくりをしているのは知っている。だからといってそこまでなりきることはないだろう!」

旅人.

13年前

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オーディション?公務員の役作り? まるで心当りのない言葉の羅列に、俺はあんぐりと口を開ける。 貴洋はこれからの撮影について話しているが、一行に頭に入ってこない。 もしかして、おかしいのは俺なのだろうか。公務員の俺はただの妄想だったのだろうか。 そんな考えが頭を過ぎり……慌てて打ち消した。 馬鹿げている。それこそ、ただの妄想だ。 第一、CMの撮影だったという一カ月前、俺は。

kayano

13年前

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…何をしていたのだろう? 自分でもおかしな気分だが、何も思い出せない。彼女のことや仕事の事などは覚えているのに、情報としてあるだけで、それにまつわる記憶または映像が何もない。 頭が混乱で満ちている時、突然車は止まった。

joeticg

13年前

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「あとで迎えにくるからー」 と言い残し貴洋は行ってしまった。 こんなひと気の無い所に見覚はない。 と、次の瞬間俺は目を疑った。 「お疲れー良い休暇だったよ」 そこにはもう一人の俺がいた。 「ちゃんと公務員の役作りしてたか?」 只々怖じ気づいているともう一人の俺は俺の鼻を強引に押してきた。 全身の力が抜けると共に自分の左手首にほんの微かだか何か文字が見えた。 copy robot NO.126

koiwashi

13年前

- 完 -