彩草〜雪溶けの季節〜
紫、藍、葵、桜、茜、杏、黄菜、翠、雪──教室で交換小説に興じる九人を突き刺す、嫉妬と憎しみの入り交じる視線があった。ひとり誘われなかった少女、漆である。
「あいつら、絶対に許さないから……」
漆は特に、雪への憎悪をたぎらせていた。引っ込み思案の雪に声をかけて、最初の友達になったのは自分のはずなのに、彼女はいつの間にか紫たちのグループに入り込み、自分のことなんかすっかり忘れてしまった様子なのだ。
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「ねえ、それ見せて」
なんでもない素振りで漆は雪に近付いた。怯えと戸惑いの混じる表情を浮かべ、それでも交換小説のノートは大事そうに抱えたままの雪。その態度が余計に漆を苛立たせた。
「見せてよ。私達、友達でしょ」
漆は無理やりノートを取り上げた。雪は小さくあっと言ったが、それだけだった。
既に九人分の小説が書かれたこのノート。
破いてしまおうか。
汚してしまおうか。
跡形もなく、焼いてしまおうか。
- 2 -
雪の哀れみの込もった視線に気づき、漆はハッとする。自分は誰にも好かれない、哀れな人間なのだ。そう考えると、ノートを持つ手が淋しさと怒りで震えた。
「漆ちゃん、ノート返してあげてよ。私たちの大切なものなんだから」
紫が漆に向かって言う。私たち……どうしてその中に私が入っていないの?漆はぎゅっと唇を噛んだ。私の気持ちなんて誰にも理解できないよ。
漆は交換小説のノートを持ったまま教室を飛び出した。
- 3 -
漆は違う学年の階の一番奥のトイレに逃げた。
この休み時間が終わり、次のこの日最後の授業後にHRとなる。
漆は頭を抱えた。後悔の念と、遣る瀬なさがこみ上げる。
手にしたノートの感触がまた煩わしい。
「あの教室に戻りたくないよぉ...」
なんでこんなことをしたのか、自己嫌悪の荒波がしぶきをあげて漆を飲み込む。
私は、バカだ。
漆はもはや他人に対する憎悪ではなく、己のふしだらさを呪った。
- 4 -
「彩草」表紙の文字を見て天を仰いだ。
「どうしよう...」
と、「漆ー!漆ー!」
私の名を呼んで駆けてくる足音。
ドアの前で止まる。
「漆、そこにいるんでしょ?」雪がドアを叩きながら言う。
「うるさい!こんなの返す!」ドアの隙間からノートを投げた。一瞬の沈黙。耳ざわりな始業のベル。
「具合悪くて早退したって言っておく..」
ノートが静かに私の足元へ置かれた。
「最後の私のページを見て...」
- 5 -
雪の呟くような声、去っていく足音。
漆はほっとした。そしてノートを手に取って開いてみた。
悔しいけど互いを思う素敵な話。雪も生き生きしてる。雪は変わったんだ、漆はそう思いながら最後のページを開いた。
あっ!
それに漆は見覚えがあった。翠を漆に、ノートをメールに置き換えればそれは雪からの初めてのメール。
最後の言葉は何なのだろう?
雪が泣いている!
たしかあの時は「久しぶりに笑った」はず。
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「私。漆のこと、好きだよ。初めて話したのは、ヒッグ、漆だから。こんなことになるのは、グスッ、辛い」
ずるいよ。
漆はつぶやく。
これじゃ、私一人が本当に馬鹿みたいだ。
「私、漆も仲間に入ってもらいたくて。それで、だから、その」
わかったから。わかったから。雪。あなたのことは私が一番知っている。内気なところも、さりげなく気を使う優しさも。私だって雪のことが好きだ。
漆はトイレの鍵を開けた。
- 7 -
…次の日。
漆は二冊のノートを手に、学校へ向かった。
教室のドアを開ける。いくつかの、様々な感情の籠った視線が、漆に突き刺さる。
それに抗するために、わざと大きな声で挨拶した。
「おはよう」
「おはよう、漆」
「…おはよう、漆ちゃん」
窓際の雪と、その隣にいた紫から、返事が返る。
漆は、二人の所へ歩いた。
訝しげな紫と真剣な雪の前に、漆は持参した二冊のノートを取り出してみせる。
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ひとつは表紙に彩草と書かれたあのノート。
そのノートをそっと紫に手渡す。
「…ほんと…ベタな事しか言えないけど…ごめん…ね」
涙ぐむ漆はもうひとつのノートを雪に手渡す
それを見た雪は、ふと笑って一冊のノートを漆に手渡す。一言「久しぶりにね」と添えて。受け取って漆がにっこりと微笑む。
二冊のノートのには
漆と雪の初めてのメール、二人で作った少女が素敵な九人の仲間とであう話が綴られていた…
- 完 -
作品情報
彩草〜雪溶けの季節〜
#3090
- リレー期間
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9日