ケーキの妖精さん

カシスショコラ ピーチタルト 洋梨ラムケーキ ショーケースに並べられたとりどりのケーキたちにはそれぞれ妖精さんが宿っていた。 パティスリー Fée Poudreの店主は何だか特別な雰囲気をまとった小柄な女性で、人好きのするふっくらしたそばかすがチャーミングな人だ。 彼女自身ニンフか魔法使いかの様な。 今朝もケーキの妖精さんたちの話に耳を傾けている。かなりの忍耐力を要する仕事だ。

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この店の妖精が宿っているケーキは、食べた人に幸せを与えると街で噂されていた。 全然男性からモテなかった太った角野卓造に似た女の子が、この店のイチゴのショートケーキを食べた翌日、多勢のイケメン達に囲まれ真ん中にこの女の子という、まさにショートケーキのイチゴのように紅一点だった。 まさに幸せのイチゴのショートケーキだ。 店主の女性が聴く妖精たちの話しは、こんな人間を幸せにしたと言う話しだった。

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そんな中、店主は一人浮かない顔をした妖精がいるのに気いた。 それは、クロワッサンの妖精である。 洋菓子店の中にはクロワッサンを作る店も多く、この店もクロワッサンをケーキと一緒に置いていた。 妖精は他の妖精を横目にしながら愚痴をこぼした。 「あ〜あ、他の仲間はカラフルなケーキなのに、なんで僕だけ地味なパンなんだろ…それに、ケーキは楽しい時間に食べるのに、こっちは朝食メインだし…なんかつまんない」

hyper

13年前

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と、そこにマコロンの妖精さんが現れました。 「やあ、クロワッサンの妖精さん。なんでそんなことで悩んでいるんだい?」 「そんなこと?そんなことだって!?マカロンの妖精さん、君みたいに鮮やかなケーキには、僕みたいな重なった薄い皮のことなんてわからないんだよ!」 クロワッサンの妖精さんは大きな声で言いました。 「たしかに君のことはわからないけど、君は特別な時じゃなくても買ってもらえるから羨ましいな」

yassay

13年前

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「そうかな?。」 「そうさ、君には君にしかない魅力があるじゃないか。」 「そう言ってくれると、うれしいなぁ。」 「いいんだよ、当たり前の事を言ったまでさ。」 「やっぱり君には敵わないな。」 クロワッサンは、とても温かな笑顔でそういった。 カランコロン、お客さんが来店したようだ。 「いらっしゃいませー、よくおこしくださいました。」 「今日は、なにかオススメがあるかしら?」

munk8

13年前

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「そうですね〜…」 そう言って彼女はお店のケーキ棚を一望した。その何気無い動作には、食べ物に宿る妖精さんの表情、仕草をうかがう為というちゃんとした理由があった。 そして、お客さんに一際熱い眼差しを向けていたチーズタルトの妖精さん達に気付くと彼女は、 「今はあのチーズタルトがオススメですね」 と言った。すると彼らは一斉に喜び出した。 妖精は人の心を見抜き、彼らを必要とする者の元に向かうものだ。

harapeko64

13年前

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さくさくとしたタルトに、まったりととろけるチーズ。ほんのすこし酸っぱい甘さは恋の味。 チーズタルトの妖精は他の妖精たちに見送られながら箱の中に飛び込んでいった。さっきまでしょげていたクロワッサンの妖精も、笑って手を降っている。 お客さんは綺麗な女の人だった。今日は大切な恋人との記念日。 はじめて手を繋いだときの、あの気持ちを思い出して貰えるように。 箱が閉まる瞬間に、店主は優しく妖精に囁いた。

lalalacco

13年前

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「彼女たちが素敵な思い出が出来るように… 大切なひとときのお手伝いをよろしくね あと、ありがとう…チーズタルトの妖精 さん。」 店主はそういいながら、箱を閉じると 「お待たせしました」と お客さんに渡すと、 お客さんは嬉しそうな笑顔で 店を出て行った… 他の妖精たちが、ニコニコと 「よかったね、きっと幸せな笑顔になる」 店主はにっこり…

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こうして今日もケーキの妖精さん達はお客さんに幸せを与えるのでした。 明日は一体どんなお客さんが店を訪れるのでしょうか…

noname

12年前

- 完 -