ラスト・クリスマス

「まじだりーわ。」 赤い服に赤い帽子、顎には立派に蓄えられた白いヒゲ。 肥えた体でのっそり立ち上がり白い大きな袋を持って呟いた。 「何で俺だけみんなが楽しんでる中働かなくちゃあいかんのだ。勘弁してくれよ。」 その様子をじっと見ていたトナカイは、 「いや、だってサンタさん普段働いてないじゃないですか。こんなに美味しい仕事他にないですよ。」 「まあな。次のえーっと…赤坂君の家に行くか。」

Tsururin

13年前

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「うぇ〜い。と〜うちゃ〜く。はい、止まって止まって〜」 『ちょっと!もっと気合い入れて行きましょうよ!一応夢を与える仕事なんだし…』 「はいは〜い…っと。赤坂くんの欲しいものはこれか。ちっ、しけてんな」 『…』 「んじゃ、行ってくるわ」 『起こしちゃダメですよ!』 「そん時ゃ腹にワンパン入れておしまいよ」 『…』 サンタはゆっくりと、されど大胆に室内に入って行く。

13年前

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「おっじゃまっしま~す、っと。赤坂くん、寝てる?寝てるかな?」 「(ちょ、静かにしてくださいよ!)」 窓越しに見えるトナカイが口をパクパクさせながら訴える。アイツは心配性なんだ。 「ったく、大丈夫なのによー。赤坂くん、君に素敵なプレゼントだよー、良かったね~」 下げてある靴下の中には駄菓子を詰め込み、枕元には"プレゼント"を置く。あとは誰にも見つからないまま帰るだけ、だった。

はるあ

13年前

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「いたぞ!」「捕まえろ!」 突然の閃光。そして枕元に立つサンタに降り注ぐ布団の山。 「お前がサンタだなっ!生け捕りにしてやるから覚悟しろ!」 ものの三分もしないうちに、布団ごと縄跳びでぐるぐる巻きにされたサンタの出来上がり。 「......」 ちらりと窓の外を見ると、案の定トナカイはやってしまったという顔をしてがたがたと震えていた。 目の前には、子どもが三人。

lalalacco

13年前

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「やっぱりサンタは居たんだ!」 サンタの存在を確認したうえに縛り上げといて、一言目はそれかよ。 なんて思いながら縄を抜けてワンパ…じゃなくてサンタパワーで眠らせた。 赤坂君以外の子供にもプレゼントを置いて家を出ると、さっきまで居たはずのトナカイが居ない! 「おいおい…仕事はこれからだってのによー」 このまま帰っても良いんだが、仕方なくトナカイに電話した。

(P)

13年前

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「おーい、トナカイ?今どこだー?」 『いや、あの……』 「どうしたんだよ」 『野生動物保護協会に捕まってしまいました……』 ……どうやら耳が遠くなってきたらしい。 「なんだって?」 『だから野生動物保護協会に……』 ブチッ 他の子にもプレゼントを配りに行かないとな。急がないとなー……。 え?トナカイだって?そんな野生動物は知らないぜ? ーーーそしてプレゼント配り終え……

ルーク

13年前

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れるわけがない。 「次の家ってこっから5キロも先の山奥じゃん!朝が来るわ!これホントに俺の管轄内?隣の管轄の間違いじゃねぇの?」 こちとら移動は全部トナカイとソリなんだ。 VIPなんだ。 運動不足で肥満のサンタが、プレゼントを自分の足で配るなんて無理。時間足んないし。めんどくさい。 サンタ辞めた方がマシだわ。 「チッ、あの役立たずの赤鼻が。5キロ以内にいなかったら、丸焼きにしてやる。」

shion

13年前

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「人使い、いや、トナ使いの荒い奴だったよ。 全く。」 俺は、三太を一人にして、自宅に戻っていた。 「三太との仕事も終わりだ。俺が人間に仕えるなんてガラじゃないしな。」

hamadera

13年前

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こうしてトナカイは次々と仕事をやめていった。 トナカイを失ったサンタたちは職を辞し、その年を最後にクリスマスの夜にサンタは来なくなった。 「お前知らないのー?サンタってお母さんなんだよ?」 「違う!サンタはいるもん!捕まえたもん!」 バカにされても、赤坂君は訴え続けた。 こうして子供達の夢は世の親たちに託された。もしかしたら、赤坂君は被害者なのかもしれない。 あの、最後のクリスマスの。

N.YOHAKU

13年前

- 完 -