ツインテールは譲れない

渡された教科書には、 1ー4 R.Tanaka と書かれていた。 「お前さ…借りたモンは自分で返してこいよ」 「いいじゃん椎葉。廊下行くなら、ついでっしょ」 昼休み、購買へ行くタイミングを体良くパシリに使われる。 貴重な時間を浪費したくはなかったが、現国に筆記体の署名をするR田中に興味が湧いた。 もしかして女子だろうか? などと思っていたら… 田中ラジエルと名乗る、金髪ハーフ男子が現れた。

おやぶん

11年前

- 1 -

王子顔とは対照的に弁当の中身は日本人そのものだ。 玉子焼きに芋の煮転がし、母親が日本人なんだろうか。 俺は何人とのハーフなのかと尋ねた。 どうやら地雷を踏んだらしい。 「そういこと聞かれるの一番嫌いなんだ。この金髪も染めたいくらいだ」 「え?金髪カッコいいじゃん」 「なに言ってる。黒髪ストレート優等生キャラが最高だろ」 ん?なんの話だ。 「俺は金髪ツインテールが好みだ」 つい乗っかってしまった。

- 2 -

「…悪いが、俺にそんな趣味はない。」 パタンと弁当の蓋を閉じ、ラジエルは冷ややかに言った。 「あ、やっ、そう意味じゃなくて、俺も男に興味ねーよっ!」あたふたと訂正しながら現国の教科書を手渡した。「近藤から返すように預かった。じゃあ。」なんとなく気まずくなって4組の教室から出て購買へ急いだ。 遅くなったせいか、ツナおにぎりと牛乳しか残っていなかった。 (はぁ…でも、あいつの弁当、旨そうだったな…)

11年前

- 3 -

「どうだ、変な奴だったろ」 クラスに帰ると、近藤がラジエルについて教えてくれた。 何でも父親がフランス人でありながら熱狂的な日本通で、若い頃に帰化したらしい。その薫陶は息子にも十全に受け継がれ、ラジエル自身も又生粋の和風マニアなのだとか。 柔道三段、書道初段、三味線に能まで嗜むと言うのだから恐れ入る。 「今の日本には大和撫子がいない、て小さい頃からしょっちゅう愚痴ってたよ」 …何とも嫌なお子様だ。

11年前

- 4 -

「で、なんで自分で返さないでわざわざ俺に持って行かせたんだよ」 「ラジエルとお前、気があうんじゃないかと思ってさ」 はっはっは、と近藤が俺の肩を叩いた。 気があう? 俺とあの金髪美少年が? 「今度お前のコレクション見せてやってくれよ。あいつ漫喫行く金がないって毎日うるさいんだ」 確かに俺は漫画専門部屋を作るほど、蔵書数では人に負けないとは思っているが……。 本当にあいつ漫画読むのか?

ミズイロ

11年前

- 5 -

次の日すれ違ったラジエルは、怖い顔を俺に向けた。気まずい空気を払拭するため「俺んちの漫画部屋来ない?」と誘ってみた。自分でもどんなナンパかと思う。 だがラジエルが一瞬にして顔を綻ばせたあたり、最高の口説き文句だったようだ。 オーマイゴッド!やらアンビリーバボー!やら叫ぶラジエルに、フランス語じゃねーのかよ、と思ったのは俺だけじゃないはずだ。 そして放課後、ラジエルは意気揚々とうちへやってきた。

toi

10年前

- 6 -

壁掛け式や、キャスター付きの本棚。自由かつ、スマートに空間を利用することを考案したレイアウトには自信がある。中でも二段ベッドの一段目を改造したスペースはお気に入りだ。側面を本棚で固めているので、まるで夢のように、漫画に囲まれながら眠ることができる。 ラジエルが真っ先に手を伸ばしたのは、人気忍者漫画『TARUTO』だった。 「案外スタンダードだな」 その言葉はラジエルの自尊心を擽ったらしかった。

aoto

10年前

- 7 -

「良いだろ別に。まずはスタンダードからさ」 言いつつ、頬を火照らせて興奮気味にページをめくっている。 はじめは微妙な空気だった。 が、俺が押入れにあるTWO PIECESの全巻を見せたのを皮切りに、漫画トークは一気に盛り上がった。 そしてあっという間に八時。帰り際、笑顔のラジエルが俺に握手を求めてきた。 「君とは親友になれそうだよ、椎葉くん」 「おう!…金髪ツインテールは譲れないけどな」

kam

10年前

- 8 -

こうしてラジエルと俺は近藤の読み通り友達になり、休み時間のたびに顔をつきあわせる程度の仲になった。 今日の俺は紙袋一杯の『少女の奇妙な冒険』シリーズと引き換えに、ラジエルの母親お手製のチーズケーキを手に入れた。 それにしてもラジエルさんよ、お前の金髪はいつの間にツインテールがデフォルトになってんだ? なまじ顔がいいばかりに似合ってんのがメッチャ腹立つから今すぐ解け。いいな、今すぐにだ。

nagisa

10年前

- 完 -