ミステリアスなレストラン

「ご注文は?」
店主の女は笑みを浮かべて応じた。
「注文はと言われても、ここには何も書かれていないじゃないか」
男は機嫌にメニューを女に返した。
そう、中を開いてみれば、中にあったのはただの真っ白な紙。文字ひとつ書かれていないのだ。
「あら、そうですか」
「いや、だから」
しかし女は男の怒った様子を気にする風もない。
「ところで、ご注文は?」

――『定員一名の喫茶店』
それがこの店の名だった。

kam
- 1 -

(何様のつもりだ、この店主…)
男が声なき嘆息を漏らす。

ただ照り付ける真夏の陽射しを避けたくて、手近な店で小休憩を求めた結果がコレだ。
休まるどころか、気を揉む会話に苛立ちが募る。
「まだ、決めかねてました?」
「だから、そうじゃなくて…」
女は会話に漂う妙な空気を意に介さず、入店時の笑顔そのままでメニューを突き返してくる。

「口で言う必要はありません。思い描いて頂ければ結構です」

おやぶん
- 2 -

「じゃあ…あれか? 何も一切言わなくても、以心伝心で分かる、そういう意味だな?」
「ち、違います」
尚も、突き返されるメニュー。相変わらず表も裏も真っ白なままだ。
女はくたびれたようにメニューを取ると、
【お客さまの考えたことが、このようにメニューに描かれるのです!
お判りいただけまして…?】
ムカッ。
メニューを引ったくる。途端に真っ白くなり、男が念じると
【お高く止まってんじゃねーよ。バーカ】

響 次郎
- 3 -

「かしこまりました」
すると店主は軽く頭を下げ、店の奥へと引っ込む。
てっきり文句の一つでも返ってくると思っていた男は拍子抜けしてしまった。

しばらくしてから店主は、銀のワゴンと共に戻ってくる。
「お待たせいたしました」
そして中から次々とコーヒーカップを取り出しテーブルへと積み上げると、椅子に乗って一番上のカップにコーヒーを注ぎ始めた。
「【お高く止まってんじゃねーよ。バーカ】でございます」

ino
- 4 -

「なっ…」
「このコーヒーは、お高く止まっている人間が無意味な存在であると表現して…」
「わ、分かった!俺が悪かった!だからこれを下げてくれ!」
「当店では、お出ししたものは最低一口はお召し上がり頂くのか決まりとなっております」
「マジ…?」

男は椅子に乗り、そーっと一番上のカップを手に取ってコーヒーを一口飲んだ。
「こ、これでいいか?」
すると店主は一礼して、あっと言う間にコーヒーを片付けた。

hyper
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しかしながら、コーヒーを一滴も溢さずに片付けていく様は中々のもので、この喫茶店はメニューだけではなく店主も普通ではない。
気を取り直して男は再びメニューを手に取った。
「ここに映ったものはなんでも用意できるんだろうな……?」
「勿論でございます。」
言ったな、と男は呟きメニューに集中する。
【ソフトシェルクラブの唐揚】

喫茶店に脱皮したての蟹なんて出せるはずが――――

「かしこまりました。」

アオトキ
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「…そんな馬鹿な。」

無論、客席から見える範囲に生簀などなく、店の外観からしてキッチンも然程広くないように思える。しかし、狼狽える様子もなく店主は店の奥へ消えていった。
さっきはこちらが料理としては曖昧な注文をした為、いい加減なものを出してやり過ごしたようだが、今度ばかりは誤魔化せない。
「くだらんトンチをきかせて来たら、詐欺とでも言ってタダ飯食わせてもらうか。」

そんなことを思っていると、

kesuke
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「お待たせ致しました。ふふっ、捕まえてくるのに少し苦労しました」

トンチなんて何もない。正真正銘【ソフトシェルクラブの唐揚げ】が運ばれて来たのだ。

「アンタは一体何なんだ…?」

店主はそれには答えなかった。にっこりと笑う顔は不気味な仮面のようだ。

「さあ、お召し上がり下さい」

トーマス
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「あ、頂きます。」
なぜか何者、かという質問について深く聞くことができない。しかしその唐揚げを食べると、
「美味しい。」
天にも召される美味しさだった。いかにも「ソフトシェルクラブ」だ。言葉を聞いた店主は。
「ありがとうございます。」
と一言放った。この店がどんな店でなぜなんでもでて来るのか。それは分からなかったがただとても美味しい料理がでて来るということがわかった。そして男は密かに常連となった。

橘さくら
- 完 -

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