俺は今、反逆者を追っている。 姿を見たことは一度もないが、どうやら目の前にある部屋のようだ。 装備の確認を終え、扉を開けると、そこにいたのは、 「子ども?」 一人の子どもがじっとこちらを見ていた。何も言わずにただ見ていた。 ふと、恐怖に似たようなものを感じた。しかし何故だ?相手は子どもだ。大人の俺の方が強いに決まっている。しかし、震えは止まらない。 反逆者がこっちへ歩いてくる。
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「ふーん兄さん一人か」 子どもはその姿に不釣り合いな、見下した笑みを浮かべた。 「もっと大勢でやってくるって踏んでたんだけどな」 ちょっと肩すかしだね。 子どもは人を馬鹿にしたジェスチャーをとると、拳銃で俺の左足を撃った。 強い衝撃とともに激痛が神経を襲った。 油断していた。 まだどこかに、この子どもが反逆者であることを信じていない自分がいたからだ。 「本当に君なのか?」 「撃ったろ? 信じてよ」
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「はぁ、僕も舐められたもんだね。警戒もできないような兄さんに追われるなんて」 至極つまらなそうに、彼は武器を向ける。拳銃だけではなく、侮蔑という名の武器を。 だが、構わない。 「ここでどうする?」 「追手の人を殺すんだよ、一人残らず」 「へえ」 面白い。 「全員、だな?」 「奇襲でしょ?」 「ああ。けど、負けるのはお前だよ。警戒ができてないのはお前の方だからな」 これでよし。 あとは、潰すだけだ。
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詳しい罪状は知らない。今の世の中、“反逆者”と言えば通る。それは追われ、狩られる者たちの総称だ。その意思は無かったとしても政府の意に反すれば“反逆者”。 このチビの言動からすると、確信犯だろうが。大方契約違反か隠れて盗みを働いたか。銃を所持していた点から見て、年長の連中と徒党を組んでいたのかも知れない。 「さあ、銃を棄てろ。両手が見えるように頭より上に挙げるんだ」
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彼は顰め面で拳銃を床に放り投げた。よし、それで良い。痛む左足を引きずりながら子どもに近付く。 あとは可哀想だが手錠をかけて、無線で仲間に応援を頼めば── 「誰が簡単に捕まってあげるなんて言ったの?」 発砲音。 「もう一丁隠し持ってやがったか」 狙いは俺の心臓だった。それでも俺が倒れないのを見ると、すっと目を細める。浮かび上がるのは、侮蔑。 「可哀想なのはお兄さんだ。権力の犬、って言うんだよね」
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「権力は役に立つ。こんなふうにな」 シャツを開いて防弾チョッキを見せた。彼は躊躇わず狙いを俺の眉間に移した。 「撃ってみろ」 俺は言った。 「俺はな、結構感染力の高い病気を持ってるんだ。俺の血を浴びたら、お前にもそれが移るかもしれない。それでもよかったら撃てよ」 子どもの顔にこれまでにない怯えた色が浮かんだ。 左足の血を拭った掌を翳し、俺はまた彼に近づく。 「く、来るな」 彼は慄いて後退った。
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「撃てよ!」 「確かに権力は役に立つけど僕にいらない」 何かを決意した様に彼は銃を俺の眉間に向ける 「俺を打てばお前も死ぬぞ」 「僕は自由に囚われた奴隷だ死しか自由への道はない。僕は父上の操り人形にはなりたくない」 扉が開き銃弾が彼の持っていた銃を弾く 「白鳥様、お父上がお待ちです」 白鳥は政府のトップだ 驚愕する俺をよそに彼は諦めた様に目を伏せる 「僕は逃げれなかった、また権力の犬に成り下がる」
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追手に挟まれ去りゆく彼に声をかけた。 「お前は白鳥の息子なのか?」 歩を止め彼は振り返らずに呟く。 「残念ながらね」 俺はその背後で落ちていた彼の銃を拾う。 「なぜ反逆など…」 弾はまだ残っている。 「権力から逃れたかったのさ。僕はあの人が使う駒のひとつだ。使えない駒ならその内捨てるだけだ」 人形、犬、駒ーー自らを貶める揶揄を口にする彼は何を求めたのだろう。 そして俺は…何を求めてこうしている?
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俺は力一杯引き金を引いた。 弾はくるくると回転し、政府のトップの広い背中にめり込んだ。 崩れ落ちる白鳥。吹き出る血液。 反逆者は驚いたようにこちらを振り向いた。 「自由にしてやるよ」 自由のない生活。それは自分たちも同じだった。政府から雇われた人間は発言、行動を制限される。全て白鳥の手によって。 SP達が俺の元へ走ってくる。俺はそいつらに弾を乱雑に打ち込んだ。 もういい。 今は、俺が反逆者だ。
- 完 -