それぞれの一日

またこれかいな。固いねん。ほんで、口の中がパサパサになるねん。喜んでる振りして食べるけど。ほんまは、味の濃い夕飯の残ったやつがええんや。食いごたえがあるねん。 食う寝る散歩。これくらいやからな、楽しみ。特に食に関しては、充実してくれんとな。 (なんや、爺さんどこ行きよったんやろ?えらい静かやで。なんかおかしいやん?) 「わおーん(じぃさーん)」

jun

13年前

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ぼくの意識は、まだ体に残っていた。 爺さん爺さんと呼ばれていても、ぼくはまだ70代だ。一発殴られたくらいじゃ、死なない。今までだって、しぶとく生き抜いてきたんだ。 「なんもねぇな……こりゃハズレか」 思ったより遠くから、ぼくを殴った奴の声が聞こえる。 畳に伏している状態だが、泥棒に入られてる最中なんだな、と分かった。 庭からシロタの、遠吠えが聞こえる。 侵入してくる時は鳴かなかった癖に、畜生。

sir0m0

13年前

- 2 -

初仕事でドジっちまった。 仕事っても上司だ部下がいるわけじゃねえ。気楽な一匹狼よ。 だが今回はそれが仇になった。 師も無いままに、思いつきだけで泥棒稼業に足を突っ込んじまったんだ。ああ畜生! 考えればわかることじゃねえか。普通はもっと下調べだなんだしてから獲物を決めるんだろうな。 防犯番組くらいしか勉強材料が無かったもんで、一番防犯の甘い爺さんの家に入ったら、盗られるもんがねえってわけだ。

- 3 -

今日も地域のパトロール、明日も地域のパトロール。物騒なニュースが世間を騒がせているこのご時世でも、いつもこの町は平和だ。 おや?今日はやけにシロタくんが吠えているじゃないか。お爺さんはどうしたんだ。 はっ、まさか中で倒れているんじゃないだろうな。孤独死なんてシャレにならないぞ。 慌てて部屋の中を覗いたら、見知らぬ男と倒れているお爺さん。 こいつ、泥棒だな! そう直感し、上司に応援を頼んだ。

lalalacco

13年前

- 4 -

明日は娘の結婚式だ。 父親の最後の大仕事、バージンロードを歩くときは最高にダンディでありたい。 だから今日は床屋に行くと決めている。今から目頭が熱い。 部下から無線。窃盗?現場は? 到着して気づいた。お隣じゃないか! 現場は思い出詰まった我が家の隣家、そして明日から娘が暮らす家だった。 折しも帰宅した義理の息子(仮)と部下の共闘で泥棒は無事確保。 救急車も到着し、隊員が駆け寄ってくる。

fab

13年前

- 5 -

お爺さんに目立った怪我は無かったが、頭を打っていたので、念のため救急車で運ばれて行った。 泥棒も逮捕し、一安心だ。 あれ、隣の家、確か警部補の家じゃなかったか? それに明日は娘さんの結婚式だとか。 だから、今日は一日中上機嫌だった。 早引きして床屋に行くって張り切ってたな…。 僕はそんなことを考えながら、野次馬たちを追い払う。 警部補の助手席には必ず乗るようにしている。 僕の憧れの人だから。

12年前

- 6 -

適当に話を交えつつ、ハサミを動かす。 「へー、明日は娘さんの結婚式なんですか、そいつはめでたい」 なんて言いつつ、話は全然耳に入って来ない。いつもはちゃんと聞くが、今日は勘弁してもらいたい。 だって、昨夜のキャバ嬢が綺麗でかわいくてゴージャスで、もう、とんでもない女だったもんだから、今朝からその娘の事しか考えてない。 もう一度会いたいなぁ、あの娘に。

帽子男

12年前

- 7 -

いつも以上に体が重い。 二日酔いじゃない。手術の後遺症が日に日に肉体を蝕むのが分かる。 ゆうべは床屋のおじさんが楽しい人だったからある程度気は紛れたけれど、やっぱりまだ断ち切れないでいる。 好きな人に似合う自分になるためにたくさん努力をした。お金を貯めてバンコクに渡り、全身すべて作り替えてきれいな女になった。 それなのに。 あの人は私の知らない誰かと明日結婚式を挙げる。 笑って幸せを祈りたいのに…

髭鬘

12年前

- 8 -

明日は私の結婚式だ 彼とずっと先の未来を紡いでいくんだ お父さんは明日の為に色々と準備をしてくれてるみたいだけど 私は本当に彼と幸せになれるのかな あれ?なんか家の方が騒がしい? よく見たら隣の家みたいだけど 泥棒でも入ったのかな? ん?お父さんと彼もいる 何やってるんだろ 捕まえたのかな? 別にどうでもいいけど 私は明日のお父さんとお母さんに手紙を書かなきゃいけないもん それじゃね〜 また明日!

ヒビキ

11年前

- 完 -