マッチ売りの少女

この街には夜が来ない。 別に今に始まったことじゃない。 ずっと、ずぅーっと昔から。 この街があたしは大っ嫌いだった。 今日もクソ親父にぶたれたし。 マッチを売って来い? 夜も来ないこの街でマッチに何の需要があるんだよ… マッチは一時期珍しいので流行ったが夜が来ないこの街には必要なく、やがて廃れた。 なのにクソ親父は未だにその安さからマッチを仕入れあたしに売らせる。 さてどうしようか…

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マッチのまんまじゃまず売れない。 そうだ、何か作るか・・・ あたしはマッチで模型を作った。主に建物の模型。可愛らしい一軒家から荘厳な宮殿。 くっつけるノリがあれば作れる。 それは少しづつ売れてやがて話題になり あたしの作るマッチ模型は売れた。 親父は知らない。 あたしが財を貯めていることを親父は知らない。相変わらず少しの売り上げを親父に渡すだけ。 私はいつか親父から逃げる。

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今日も親父にぶたれた。 だが、今日は打たれどころが悪かったのか口を切ってしまった。 酒に溺れてるただのクソ親父のくせに 家から追い出されたあたしは薄汚れてきたない壁に血と混ざりあった唾を吐く。 金はだいぶ溜まってきた。 コネも珍しいからと、話しかけてきたやつらの交流を伝っていけばなんとかなるだろう。 そろそろ、計画を始めるとしようか

にらたま

12年前

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まずは、安全な住処の確保だ。 クソ親父がいる家に、私の物は無に等しい程度にしかない。このまま家に戻らなくとも、生活はどうにかなる。 薄汚れた壁に挟まれた路地を抜けて、大通りへ、大通りを東に200メートルほど進んで左に曲がった店。 そこで、親しい商売人仲間のアルベルトに金を渡した。アルベルトは年こそあのクソ親父と同じくらいだが、働き者で人の良い何でも屋だ。私の隠れ家と生活品は用意してくれるだろう。

なつ

12年前

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次に新しい仕事を探す。 マッチはクソ親父から貰っているため、逃げ出せば売れない。 私は大通りに建っている店を片っ端から訪れ、雇ってもらうよう頼み込んだ。 しかし、なにも出来ない私を雇ってくれるところはどこもない。 仕方なく大通りから少し外れる。 そうだ、あの店なら─── 私が見つけたのは小物屋。 中に入り、マッチ模型を見せながら頼む。 店主はマッチ模型を手に取ると、快諾してくれた。

シャル

12年前

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「この模型はいいセンスをいってるねぇ。この形といい。この組み立て具合といい。なかなか細かい所まで、出来ているねぇ。君女の子なのに、すごく手先が器用なんだね。気に入ったよ。」 店主はなにかヤバい物を見るかのような怪しそうな顔で、模型をジロジロ眺めていた。

12年前

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「店の奥に君の工房を用意するよ。マッチも好きなだけ使って構わない」 店主の目は怪しく輝いていた気がした。 まぁ、別に構わない。 私はマッチで好きな物を作り、店主がそれを売りさばく。何も不満はない。 クソ親父のところより遥かに待遇はいい。 だが、このとき私は、まだ店主の思惑に気づけない愚か者だった。 数週間後、街の富裕層宅で家が全焼する事故が5件も発生した。

ぬーさん

12年前

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街は、混乱した。 しかし、私には関係ない。 そう思って、私は毎日マッチの模型を作り続けた。 その日は、大きな作品を作っていたので、遅くなってしまった。また明日にして、そろそろ休むことにし、店主に声をかけようと工房を出た。 しかし── そこに、店主の姿は無かった。

あやぽん

12年前

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「このマッチ模型君のだって? すごい出来だな」 警官に礼を言う。 「連続火事の調査で、私たちは君に辿り着いた。マッチ模型には簡単な発火装置が仕込まれていた。言いたいことはわかるよね」 「私じゃない」  ・・・・・ 「君じゃないとも」 私は首を傾げた。不幸は終わり、さっさと拘留すればいい。 「君の模型が起こす炎に幻覚作用があってね、我々とすれば好意的に取引をしたいわけだ」 夢が私を包む。

aoto

12年前

- 完 -