叶えられた願い

健一は目覚ましの音とともに、いつものように起き上がり、いつものように洗面所に向かい、いつものように顔を洗っていた。 顔を洗う左手に違和感。「ん?」そう言うと顔を上げ、鏡を見てみると信じられない事態が。 「左の眉毛が無い!!」。剃られたり、抜かれたような痕跡は無く、あたかも始めからそうであったかのように、文字通り左の眉が「無い」のである。

JPClown

13年前

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どうして? どこにいったんだ左眉毛! 剃った覚えもないし・・ あ! 思い出した、 そういえば昨日・・・

sakura

13年前

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「私と契約しないか?」 悪魔が目の前に現れて、それで…… 「何でも、汝が思うままの願いを叶えよう」 寝ぼけてたんだな。えっと… 「よろしい……では、対価として汝一番大切なモノ貰っていこう」 ……俺の一番大切なモノって左眉だったのかよ……ショックだな……。 それにしても、一体何を願ったんだっけな……。 ダメだ、思い出せない。 どうしたものか……

ルーク

13年前

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もう一度鏡を覗き込み、自分の寝起き顏を眺めながら頭を回転させた。 しかし全く記憶にない。 そこでもう一つ疑問が浮かんだ。 どうして右ではなく左なんだろう……。 自分の中で一番大切な存在が眉毛だったという事実と同じくらい、そのことが不思議でならない。 なぜ右ではないんだ‼‼ 何が違うというんだ‼‼ 願いよりもそれが気になって気になって仕方がなかった。 …と、そこでまたあることに気が付いた。

raintrain

13年前

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胸に違和感を感じる。健一はシャツを捲り上げ胸の辺りに視線を移した。 「左乳首もないだと…。」 自分の身体に起こる異変、悪魔との契約、叶えた願いとは、いやそれよりも何で左なんだ、様々な疑問が健一の頭の中をぐるぐると回る。 そこでまた気づく。 「左脚のすね毛がない。あれ、よく見ると左腕にあった大きな黒子もないぞ。」 健一の左半身からは色々なものが欠けていた。 「おい。」 背後から声が聞こえた。

Tsururin

13年前

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悪魔が様子を見にきてくれたのか? なら好都合だ。ようやくこの謎が晴れる。そして、俺が言った願いが何なのかも聞ける。 ああ、悪魔よ。どうかそこにいてくれ! 振り向きざまにそう願うと、背後にいた者の姿を確かめた。

探求者

13年前

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不安と期待が入り混じり、思わず目を瞑ってしまったが、ゆっくり目をあけると、 そこに立っていたのは… 三年前に亡くなったはずの俺のじいちゃんじゃないか!! 大好きだった、俺のじいちゃん。 ところで、なんでじいちゃんが?! え?じいちゃんが悪魔? いや、じいちゃんは仏様だもんな? なら悪魔というよりは一応天使って感じか? 頭の中が『?』でいっぱいになる。 すると、じいちゃんが俺にこう言った。

air

13年前

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「儂、帰ってもええか?今、ゲートボールしてたんじゃが?あと、なんで、儂の左半分がこんなに毛深いんじゃ?ほくろもついとるし」 ……いや、三年ぶりに孫に会ったって言うのに最初がそれか? なんか…もういいわ。左半分の毛やほくろ、返してもらった方がよっぽどいいや。 「どっちでもいいっす。あと、それ俺の毛っす。おい、悪魔さんよ。聞いてるんだろ?早く元に戻せ。」 すると、上から悪魔の声が聞こえた。

yut

13年前

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「爺さんにもう一度会いたいというお前の望み、叶えてやったぞ。死者を呼び出すのは大変なんだ。一時的に体半分入れ替えることでようやく天国から誘い出せた」 悪魔は続けた。 「代償、確かに受け取ったぞ。お前が心に秘めて大切にしていたもの、それは爺さんとの悲しい死別の記憶。爺さんとの最後の思い出だからな。どっこい爺さん今は天国をエンジョイ中。それを知ったら、もう悲しくもないだろう、参ったか」

旅人.

13年前

- 完 -