叶えられた願い
健一は目覚ましの音とともに、いつものように起き上がり、いつものように洗面所に向かい、いつものように顔を洗っていた。
顔を洗う左手に違和感。「ん?」そう言うと顔を上げ、鏡を見てみると信じられない事態が。
「左の眉毛が無い!!」。剃られたり、抜かれたような痕跡は無く、あたかも始めからそうであったかのように、文字通り左の眉が「無い」のである。
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どうして?
どこにいったんだ左眉毛!
剃った覚えもないし・・
あ!
思い出した、
そういえば昨日・・・
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「私と契約しないか?」
悪魔が目の前に現れて、それで……
「何でも、汝が思うままの願いを叶えよう」
寝ぼけてたんだな。えっと…
「よろしい……では、対価として汝一番大切なモノ貰っていこう」
……俺の一番大切なモノって左眉だったのかよ……ショックだな……。
それにしても、一体何を願ったんだっけな……。
ダメだ、思い出せない。
どうしたものか……
- 3 -
もう一度鏡を覗き込み、自分の寝起き顏を眺めながら頭を回転させた。
しかし全く記憶にない。
そこでもう一つ疑問が浮かんだ。
どうして右ではなく左なんだろう……。
自分の中で一番大切な存在が眉毛だったという事実と同じくらい、そのことが不思議でならない。
なぜ右ではないんだ‼‼
何が違うというんだ‼‼
願いよりもそれが気になって気になって仕方がなかった。
…と、そこでまたあることに気が付いた。
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胸に違和感を感じる。健一はシャツを捲り上げ胸の辺りに視線を移した。
「左乳首もないだと…。」
自分の身体に起こる異変、悪魔との契約、叶えた願いとは、いやそれよりも何で左なんだ、様々な疑問が健一の頭の中をぐるぐると回る。
そこでまた気づく。
「左脚のすね毛がない。あれ、よく見ると左腕にあった大きな黒子もないぞ。」
健一の左半身からは色々なものが欠けていた。
「おい。」
背後から声が聞こえた。
- 5 -
悪魔が様子を見にきてくれたのか?
なら好都合だ。ようやくこの謎が晴れる。そして、俺が言った願いが何なのかも聞ける。
ああ、悪魔よ。どうかそこにいてくれ!
振り向きざまにそう願うと、背後にいた者の姿を確かめた。
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不安と期待が入り混じり、思わず目を瞑ってしまったが、ゆっくり目をあけると、
そこに立っていたのは…
三年前に亡くなったはずの俺のじいちゃんじゃないか!!
大好きだった、俺のじいちゃん。
ところで、なんでじいちゃんが?!
え?じいちゃんが悪魔?
いや、じいちゃんは仏様だもんな?
なら悪魔というよりは一応天使って感じか?
頭の中が『?』でいっぱいになる。
すると、じいちゃんが俺にこう言った。
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「儂、帰ってもええか?今、ゲートボールしてたんじゃが?あと、なんで、儂の左半分がこんなに毛深いんじゃ?ほくろもついとるし」
……いや、三年ぶりに孫に会ったって言うのに最初がそれか?
なんか…もういいわ。左半分の毛やほくろ、返してもらった方がよっぽどいいや。
「どっちでもいいっす。あと、それ俺の毛っす。おい、悪魔さんよ。聞いてるんだろ?早く元に戻せ。」
すると、上から悪魔の声が聞こえた。
- 8 -
「爺さんにもう一度会いたいというお前の望み、叶えてやったぞ。死者を呼び出すのは大変なんだ。一時的に体半分入れ替えることでようやく天国から誘い出せた」
悪魔は続けた。
「代償、確かに受け取ったぞ。お前が心に秘めて大切にしていたもの、それは爺さんとの悲しい死別の記憶。爺さんとの最後の思い出だからな。どっこい爺さん今は天国をエンジョイ中。それを知ったら、もう悲しくもないだろう、参ったか」
- 完 -
作品情報
叶えられた願い
#107
- リレー期間
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1ヶ月