自然と合わせた目の先に

私は人の目を直視する事が出来ない。 その瞳に映ってる自分がどう思われているのか。顔では笑ってても心の中では馬鹿にしてるんじゃないのか。こんな私の思考が読み取られているのではないか。 目を合わせる度に不安になって仕方がないのだ。だから思わず目を逸らしてしまう。 治さなきゃって頭では分かってる。でも。 「君って、人の目を見ようとしないよね。それやめた方がいいよ」 うるさい!私の気も知らないで…

sakuragi

11年前

- 1 -

学校にはいつもマスクを装用している。 表情を隠すためだ。 マスクさえあれば、直視することも少しは緩和される。 「君っていつもマスクだけど、風邪、治らないの?」 風邪予防だと答える。 へぇ、こんな季節に風邪かと君は答える。 どうだっていいでしょ! これは私の人生なんだから! マスクしてて何が悪いの? 何かあなたに危害を加えた? 吐き出したい気持ちを抑えて、 私は自宅への帰路を歩いた。

流零

11年前

- 2 -

次の日、いつもと変わらずにマスクをして登校すると教室でもう一人マスクをしていた。 「おはよう。今日もマスクなんだね」 私と同じようにマスクをした君が声をかけてくる。 予防って言ったんだから当たり前じゃない! というより、なんであなたまでマスクをしてるの!? 私をからかっているのか。 表情を伺おうにも、 人の目を直視出来ない私には、それすら確かめられない。

Lute.

11年前

- 3 -

「僕も風邪予防しようと思ってさ。真似しちゃった。君、すごいよね。特に風邪も流行ってないのに風邪予防って。」 もう、放っておいてよ! 人と目も合わせられない子と喋ってて、何が楽しいのよ! 私の気も知らずに、君は喋り続ける。 「ねえ、なんでいつも顔逸らすの?」 あえて顔を逸らしているのに、君は私の顔を覗き込んでくる。 その時、始めて君と目が合ってしまった。 顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。

Felicia

11年前

- 4 -

「こんなに綺麗な目をしているのに…」 そう言って君はさらに顔を近付けた。 もう限界だった。 「み、見ないで!」 君を手で押し退け、私は教室を飛び出した。 だから目を合わせるのは嫌なんだ。 相手の気持ちがわかってしまうだけならまだいいけれど。 それはつまり私の気持ちも相手に伝わってしまうということなのだから。 もし君に私があのとき思ったことが伝わっていたらと、恥ずかしくなった。

山葵

11年前

- 5 -

次の日、教室へ入ろうとすると、男子たちの話し声が聞こえた。 何でお前マスクしてんの? 別に風邪流行ってないじゃん。 何か、あいつみたいだな。 マスクをしているであろう彼がからかわれているのを聞いていたくなくて、手で耳を塞いだ。 ほらね、だから嫌だったんだ。 あいつって私のことでしょ。 私と同じようにしたせいで、バカにされてるんでしょ。 自分の不甲斐なさに泣きたくなった。

toi

10年前

- 6 -

次の日、私は学校を休んだ。仮病を使ったのだ。「流行ってもない風邪予防をしてた奴がまさか風邪になるなんてな!」目を閉じるとそんな声が、どこからともなく聞こえてきた。もう嫌だ!私の気持ちをわかってくれる人なんていないんだ。もう、もう、もうーー。 ピンポーン ふと、チャイムが鳴った。 こんな時に限って両親の帰りが遅い。私が出るしかないのだ。 「……はい。……な、なんで。」 そこに立っていたのは彼だった。

10年前

- 7 -

「はいコレ」 彼はそれだけ言うと拳銃を手渡した。 「ちょっと何の冗談?」 彼は重いため息をついた後ゆっくりと言った。 「この街も駄目みたいだ」 本能的に2年前のあの光景がフラッシュバックする。 「駄目って...」 「ゾンビだよ」 私は信じたくなかった。 「そんな訳ないじゃない危険区域からは200Kmも離れてるのよ?!」 「俺のおじさんが感染したんだよ!!!」 彼の目には涙が溢れていた。

toma

10年前

- 8 -

『学校逃避』 フラッシュバックしたのはSF映画のワンシーン。拳銃を見るとゾクっとするほどとても怖かった。 「ばーん」 彼の拳銃から私の口元を目がけて水が発射される。 「え、何してるの!」 濡れてしまったマスクを私は外した。 「ごめんね」 「ごめんで許すか!」 「風邪ひいてないじゃん。明日は学校に来いよ」 ようやく素顔が見れた、と悪戯っぽく笑って彼は帰った。 拳銃も悪くないな、なんて思ったのだった。

aoto

10年前

- 完 -