ハロー、こちら、地球です。
ハローハロー
聞こえますか。
ハローハロー
誰かいませんか。
ハローハロー
そちらは地球ですか。
ハローハロー
こちらは火星です。
もし、聞こえているなら聞いてください。
僕らの星には、水が足りません。
喉が乾いてヒリヒリするのです。
どうか、どうか、助けて下さい。
もし、聞こえているならお返事下さい。
ハローハロー
そちらは地球ですか。
ハローハロー
こちらは火星です。
- 1 -
少女はハッと窓の外を見た。
月が輝いている。星が瞬いている。真っ暗なこの家からは外の様子がよく見えるのだ。
窓を開ける。冷たい空気が少女を包んだ。
「今、確かに何かが聞こえたの」
少女は窓から身を乗り出して、月に向かって語りかけた。月は何も答えない。
「苦しいって、聞こえた」
「助けを求めているのは、だあれ?」
地平線付近の空は、ぼんやりと明るい。
ずうっと遠くで何かが光った。
- 2 -
望遠鏡で地球を覗けば、偶然、窓から顔を出す女の子の姿が見えた。ハッとした表情で月を見つめるあの子に、僕らの声は届いたんだろうか。
ここからじゃ、あの子の顔まではわからない。
地球以上の科学技術を持つ火星でも、望遠鏡の鮮明さは今ひとつなのだ。
だから僕はもう一度、拡声器を片手に地球を見つめる。
ハローハロー。
窓辺の女の子。僕は火星人です。
僕の声、聞こえますか?
聞こえたならば水を、水を、水を
- 3 -
瑞穂、瑞穂、そう呼ばれた気がした。少女の名前は瑞穂といった。
はだしのかかとを高く上げて、もう一度窓から身を乗り出した。少女の指先を月明かりが照らす。
「どうして私の名前を知ってるの」
「あの光はなあに?」
月はやはり答えない。そのかわりに地平の光が強くなった。少女はじっと目をこらした。夜風がその額をさらった。
瑞穂、瑞穂、やっぱり聞こえる。
ハローハロー
こちらは瑞穂です。
- 4 -
ハローハロー
こちらは水です。
確かにそう聞こえる。
あの女の子が水なのだろうか。
それとも拡声器の音がきちんと地球まで届いていないのだろうか。
こいつらの性能がもう少しよければ。
僕は両手に望遠鏡と拡声器を握り締めながら、ゴクリと唾を飲んだ。
後何回声を出せるだろう。喉の奥が擦れて声が出にくくなってきた。
それでも。
ハローハロー
聞こえますか。
僕に水を恵んでください。
- 5 -
ハロー…
みず…
やっぱり呼ばれている気がして少女は月ばかり見ていたけれど、その隣に炎の色をした星一つ。星座早見盤を見るとあれは火星、地球の遠いお隣りさん。
ポツ…ポツ…
少女が窓から手を伸ばすと掌に落ちる水滴。雨だ。
ハローハロー
見えますか?
こちらは雨が降り出しました。
ふと少女は考える。
あの星はこの雨を必要としているかもしれない。だってあんなに燃えるような色をしているんだもの。
- 6 -
ハローハロー
そうですそれです、その水を、水を水を水を、水を、僕に…
僕らの星にはもう、飲める水が無いのです。
触れられる水すら無いのです。
大気中の酸は日に日に濃くなり、空から落ちる雨粒は海を汚し、森を溶かし、僕たちの星には赤茶けた砂漠しか無いのです。
ああ、もう、声が出ない。
ハローハロー
地球のあなた。
その掌の雨粒は、冷たいですか。暖かいですか。
ハローハロー…
水をくださ
- 7 -
月から送られる声はだんだんと遠く、か細くなっていくようだった。
どうしよう。どうしたら。
少女は振り返り、自分の立っている場所を眺めた。
真っ暗な部屋。真っ暗な家。たとえ夜が明けたとしてもこの家に明かりが灯ることはない。
だあれもいない。わたしを必要とする人は、ここにはだあれもいないわ。
少女は窓から身を乗り出すと、雨粒に体を浸して応えた。
ハローハロー
欲しいものは、どうぞ持っていって。
- 8 -
サンダルを引っ掛け家を飛び出す。
ハローハロー!
ハローハロー!
ずぶ濡れで気がつくと、私は学校の屋上で叫んでいた。
「ねぇ!応えて!」
何が欲しいの?なんで叫んでいたの?この声はもう、届かないの?
「私を!私を必要としてよ!」
その時、願いが涙になって零れた。雨に混じったそれは眩い光を放つ。
「え…」
サンキューサンキュー
君の涙は暖かいね。
サンキュー
可愛い救世主さん。
- 完 -
作品情報
ハロー、こちら、地球です。
#4176
- リレー期間
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2年8ヶ月