しろくまくとくろくまくん

「あの山の向こうにね、僕の故郷があるんだ」 しろくまくんが言った。 「山の向こう?山の向こうはあったかいんじゃないの?そんな白い体で居れるわけないでしょ」 と、くろくまくん。 「じゃあさ、今から行ってみようよ。僕の記憶が正しければあの山の向こうにに巨大な氷山が見えてくるはずだから」 「いいね、どうせひまだし」 二人は旅支度を整え、しろくまくんの故郷へ行くことにした。

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ところが、旅を始めた途端にしろくまくんは暑さに負けた。 季節が夏だったのも不運だったのだろう。 仕方なく、くろくまくんがヨイショッとしろくまくんをオンブして先に進む事にした。 どれ程山奥に進んだだろうか、獣道は唐突にパッと開け、人の村に入り込んでしまった。 「あ!色違いパンダ!」と人の子が、しろくまくんを背負ったくろくまくんの姿を正面から見て叫んだ。黒い身体に白い手足。確かにパンダと真逆だった。

真月乃

12年前

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パンダじゃないとバレたら猟師さんを呼ばれて、鉄砲で撃たれるかもしれない。そう考えたくろくまくんはパンダのふりをすることにした。 「パンダでーす」 「やっぱりパンダね。ちょっと待ってて」 パンダだとわかると、人の子は大喜びでどこかに駆けていった。立ち去るなら今のうち。でも、しろくまくんを背負っているので、そう遠くまでは歩けなかったのだ。 そのうち人の子が、両手いっぱいに笹を抱えて戻ってきた。

saøto

12年前

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「パンダさん、はいどうぞ」 くろくまくんは、笹を受け取ると無理やり食べました。 全然好物ではない。 だけど、くろくまくんは嬉しくて食べました。わざわざ持って来てくれたその子の気持ちに応えたくて。 「ありがとう。僕たちもう行かなきゃいけないの。君は、もうお家に帰りなさい。」 人の子は、言いました。 「僕も一緒じゃ、ダメ?」 お人好しのくろくまくん、一緒にしろくまくんの故郷に向かう事にしました。

今日子

12年前

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「では、しろくまくんの故郷に向かって、レッツゴー!」 くろくまくんが急に立ち上がったので、背中のしろくまくんは、どしんと尻餅をついた。 「あっ‼」 男の子にパンダじゃないってばれちやった。 テヘヘ……。 しろくまくんは、はずかしそうに笑いました。 二匹と一人の旅の始まりです。 「あの山の向こうに行けばいいんだよね」 「たぶんね」 ……頼りないしろくまくん しばらく歩くと、

Salamanca

12年前

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ついに、山のてっぺんに出たのです。 眼下には美しい光景が広がっていました。 「あれが僕の故郷だよ」 しろくまくんが指差す遥かな水平線。薄っすらと何か見える……気がします。 「あれは、蜃気楼じゃないのかい?」 くろくまくんが尋ねますが、しろくまくんは首を横に振ります。 「氷で出来た島だから。見えにくいだけで、きっとあるよ!」 しろくまくんは必死です。 しばらく考えていた男の子が、口を開きました。

11年前

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「本当にあったとしても、お船がないと行けないよ」 「おふね?」 くろくまくんは船を知りませんでした。 「水に浮かぶ乗り物だよ」 教えてあげたしろくまくんも乗ったことはありません。 「どうしよう」 二匹と一人は、うーん、と考え込みました。 「じゃあさ」 男の子が言いました。 「行ったことにしよう」 「どうすればいいの?」 「お船に乗って、しろくまさんの故郷まで行った僕たちを、想像してみるんだよ」

hayayacco

11年前

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山のてっぺんにごろんと寝っ転がった二匹と一人は、目をつぶって口々に言いました。 「ほら、おふねに乗って島に着いたよ」 「わあ、冷たいんだねえ」 「わあ、かき氷をお腹いっぱい食べたいなあ」 あんなに強かった意地悪な太陽の日差しもここではぽかぽか、なんだか眠たくなってきました。 「しろくまくんのお家が見えたよ」 くすくす笑いが次第に小さくなって、いつの間にかすやすや寝息にすっかり変わってしまいました。

noname

11年前

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ふと、しろくまくんが目を開けると、真っ赤な夕日が山を照らしていました。 その夕日は山の上で寝ている三匹…いえ、二匹と1人を赤く染め上げていました。 「わあ、あかくまくんが二匹いるぞ」 男の子が明るい声で言いました。見ると、くろくまくんは真っ赤っかです。 二匹と一人は大きな声で笑いました。 「いいこと思いついたよ」 男の子が言いました。 「ここを、あかくまくんの故郷にしようよ」

Dangerous

11年前

- 完 -