ヒトリキリノセカイ
親が酔って一階で暴れている。
最低だ。
私は自分の夕食をもって二階の自分の部屋にこもる。
どうして酔いつぶれるまで飲むのか。
ろれつが回らない口で母に対しての罵詈雑言を言う父を、
本気で殺したいと思った。
ムカつくムカつくムカつく。
いなくていい。
もう、親とも呼びたくない。
- 1 -
苛立ちを紛らわすために、夕食であるシチューを口いっぱいに頬張った。そして念じる。
あんなやつ死んじゃえ!
ーーーバタンッ!
音とともに父の声は聞こえなくなる。驚いた私はシチューを急いで飲み込み下に降りた。
父が廊下で倒れていた。
廊下で寝んなよ…蹴りを入れてやった。
が、反応はない。
呼吸も聞こえない。
父は死んでいた。
「ふふふふっ」
「誰⁉︎」
気味の悪い笑い声が聞こえてくる。
- 2 -
まさか母か?外は雨が降っている。暗くて顔がよく分からない。雷で一瞬部屋に光が差した。私の前にいる女。確かに母ではない。じゃあその後ろに寝そべって血を流している人は?
両親共に殺された。目の前の女に。でも私は
父なんて死ねばいいと思っていた。
とてつもない罪悪感に苛まれた。この女は誰なんだ。女の口が妙に大きい、笑っているからか。待てよ、このままじゃ私も殺される。
私は玄関に向かって駆けた。
- 3 -
「いいよ逃げなくて」
その言葉に立ち止まり振り返った。開け放たれたドアの向こう、暗いリビングに女は立ったままだった。
「ふふふっ、怖い?」
親が殺されて今私の身もどうなるか分からない。この異様な状況、怖いに決まってる。
「私をこ…殺すの?」
「まさか。ふふふっ」
何が可笑しいの?
雷が青白く光ると女は口を手で隠して笑っていた。
逃げろ!逃げろ!逃げろ!
けど得体の知れないものへの恐怖で動けない。
- 4 -
「あなたを殺す意味がないから。私はあなたのご両親を憎んでいるだけよ。特にあなたの母親をね」
父ではなく、母を?
すぐそこは玄関。でも足は動かない。
背後からゆっくり女が近づいてくるのがわかる。
「だって、あの人を渡してくれないんだもの。あの人が家でお酒を飲んで暴れるのは、離婚して私と一緒になるためだったのよ。だから、あなたに憎しみはないの。でも、見られてしまったし、どうしようかしら?」
- 5 -
「ひっ……‼︎」
女が近づいてくるのに動けない。
恐怖と緊張で冷や汗が流れる。
「ま、待って‼︎い、言わない、誰にも言わないからァ‼︎‼︎」
必死に命乞いするも、女の歩みは止まらなかった。むしろその不気味な笑いを余計に引きつらせ、真っ赤に染まった手を伸ばしてくる。
「言わない?…フフッ、無理に決まってるじゃない。人間ってそういうものよォ……。
この人達と同じようにねェ。」
「みィんな、一緒」
- 6 -
「私は違う!!違うからぁ…!!ゆ、許して…」
女は怖くて震えている私を一瞬見下したような目で見て、なのに笑みをたたえながら私と同じ目線に立つ。
「ひっ…!」
雷の音と光が恐怖を煽る。と同時に女の刃物が怪しく光る。
「嘘ばっかりねェ。あなたも、あなたのお父さんも。」
恐怖で歯から嫌な音が止まらない。ガタガタガタガタ
「うるさいわね、口。口止めの代わりに二度と話せない口にしてみるゥ?」
- 7 -
女は私の首に刃物を突き付けた。ギラリと不気味に光る刃の先は紅に染まっている。
私は、今から殺される……!
「わ、私に罪はないでしょう?!悪いのは母さんと父さんよ」
「その二人から生まれたあなたにも罪はあるのかもしれないわね?ふふふふ」
狐のように目を細めて女はニヤリと笑う。
「せめて、遺言でも聞いてあげましょうか」
女は意味あり気にくすりと笑い声を漏らした。私の口がカラカラになる。
「私は……」
- 8 -
私が住むこの世界は
私を、必要として•••
•••いない
•••それでも。
それでも、私は。
私は。
まだ。
「私はまだっ!!死にたくないのっ!!!」
その時、私の側を一際強い風が吹き抜けたかと思うと、目の前にいた女はあっという間に遥か彼方へ吹き飛ばされ、見えなくなっていった。
ごめんなさい。どこかの誰かさん。
私はまだ、
生きたいの。
- 完 -
作品情報
ヒトリキリノセカイ
#10242
- リレー期間
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4ヶ月