ヒトリキリノセカイ

親が酔って一階で暴れている。 最低だ。 私は自分の夕食をもって二階の自分の部屋にこもる。 どうして酔いつぶれるまで飲むのか。 ろれつが回らない口で母に対しての罵詈雑言を言う父を、 本気で殺したいと思った。 ムカつくムカつくムカつく。 いなくていい。 もう、親とも呼びたくない。

流零

12年前

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苛立ちを紛らわすために、夕食であるシチューを口いっぱいに頬張った。そして念じる。 あんなやつ死んじゃえ! ーーーバタンッ! 音とともに父の声は聞こえなくなる。驚いた私はシチューを急いで飲み込み下に降りた。 父が廊下で倒れていた。 廊下で寝んなよ…蹴りを入れてやった。 が、反応はない。 呼吸も聞こえない。 父は死んでいた。 「ふふふふっ」 「誰⁉︎」 気味の悪い笑い声が聞こえてくる。

ゆらぎ

12年前

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まさか母か?外は雨が降っている。暗くて顔がよく分からない。雷で一瞬部屋に光が差した。私の前にいる女。確かに母ではない。じゃあその後ろに寝そべって血を流している人は? 両親共に殺された。目の前の女に。でも私は 父なんて死ねばいいと思っていた。 とてつもない罪悪感に苛まれた。この女は誰なんだ。女の口が妙に大きい、笑っているからか。待てよ、このままじゃ私も殺される。 私は玄関に向かって駆けた。

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「いいよ逃げなくて」 その言葉に立ち止まり振り返った。開け放たれたドアの向こう、暗いリビングに女は立ったままだった。 「ふふふっ、怖い?」 親が殺されて今私の身もどうなるか分からない。この異様な状況、怖いに決まってる。 「私をこ…殺すの?」 「まさか。ふふふっ」 何が可笑しいの? 雷が青白く光ると女は口を手で隠して笑っていた。 逃げろ!逃げろ!逃げろ! けど得体の知れないものへの恐怖で動けない。

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「あなたを殺す意味がないから。私はあなたのご両親を憎んでいるだけよ。特にあなたの母親をね」 父ではなく、母を? すぐそこは玄関。でも足は動かない。 背後からゆっくり女が近づいてくるのがわかる。 「だって、あの人を渡してくれないんだもの。あの人が家でお酒を飲んで暴れるのは、離婚して私と一緒になるためだったのよ。だから、あなたに憎しみはないの。でも、見られてしまったし、どうしようかしら?」

12年前

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「ひっ……‼︎」 女が近づいてくるのに動けない。 恐怖と緊張で冷や汗が流れる。 「ま、待って‼︎い、言わない、誰にも言わないからァ‼︎‼︎」 必死に命乞いするも、女の歩みは止まらなかった。むしろその不気味な笑いを余計に引きつらせ、真っ赤に染まった手を伸ばしてくる。 「言わない?…フフッ、無理に決まってるじゃない。人間ってそういうものよォ……。 この人達と同じようにねェ。」 「みィんな、一緒」

ふわっ太

12年前

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「私は違う!!違うからぁ…!!ゆ、許して…」 女は怖くて震えている私を一瞬見下したような目で見て、なのに笑みをたたえながら私と同じ目線に立つ。 「ひっ…!」 雷の音と光が恐怖を煽る。と同時に女の刃物が怪しく光る。 「嘘ばっかりねェ。あなたも、あなたのお父さんも。」 恐怖で歯から嫌な音が止まらない。ガタガタガタガタ 「うるさいわね、口。口止めの代わりに二度と話せない口にしてみるゥ?」

NoName

12年前

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女は私の首に刃物を突き付けた。ギラリと不気味に光る刃の先は紅に染まっている。 私は、今から殺される……! 「わ、私に罪はないでしょう?!悪いのは母さんと父さんよ」 「その二人から生まれたあなたにも罪はあるのかもしれないわね?ふふふふ」 狐のように目を細めて女はニヤリと笑う。 「せめて、遺言でも聞いてあげましょうか」 女は意味あり気にくすりと笑い声を漏らした。私の口がカラカラになる。 「私は……」

kam

11年前

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私が住むこの世界は 私を、必要として••• •••いない •••それでも。 それでも、私は。 私は。 まだ。 「私はまだっ!!死にたくないのっ!!!」 その時、私の側を一際強い風が吹き抜けたかと思うと、目の前にいた女はあっという間に遥か彼方へ吹き飛ばされ、見えなくなっていった。 ごめんなさい。どこかの誰かさん。 私はまだ、 生きたいの。

11年前

- 完 -