裏返しの殺意

私には、浮気性の彼氏がいる。 毎日毎日、色んな女の子と遊びにでかけて 何故か私にだけ冷たくするの。 前までは大好きだったんだけど… 今は大嫌い。 でも、まだ関係を終わらせるつもりはない。 彼を殺したいから。

カプナ

12年前

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彼はいつも言う。 「俺を信用してないのか?」 「本気ならバレないようにする」 「そんなんじゃねえって」 聞き飽きた。私はそれらを聞き飽きた。 何度何度何度何度何度何度と繰り返された弁明とも否定ともとれない言葉達を、私はどれくらい脳の奥で捻り潰しただろうか? 彼に別れる気はないことは知っている。 だから都合が良いのだ。私も別れてやるものか。 私の手と彼の心臓の距離は、どんどん近づいている。

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真綿で首を絞める。そんな風にして、じわりじわりと彼を生かしながら殺す。 どこの女と一緒にいても、必ず私のところに戻るように、仕向けるの。 適度に甘えて気持ち悪いくらい優しくする。 彼は私が怒らなくなり、最初は機嫌が良かった。浮気性はひどくなったけど、私が優しいままだから、彼は私を疑い始めた。 「おまえも浮気してるだろ?」 「そう思うならスマホを解約するよ。疑われたくないから」 彼は優しくなった。

12年前

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「俺にはお前だけだよ」 そういって、彼は私の肩を抱いた。 他の女にも同じことを言って、同じように肩を抱くのだろう。そう思うと、寒気がした。 キ モ チ ワ ル イ 吐き気がした。彼に触れられる、愛されるたび、心がちぎれていくような、胃の中がひっくり返るような、そんな気がした。 別れれば良かったのかもしれない。 私の心の奥に巣ができた。 どす黒い感情の巣が。 彼を殺そうと思うようになった。

リッチー

12年前

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殺そうと思う気持ちが強くなればなる程に彼は優しくなってくる。余計、殺意が膨らむ。 「愛してるよ?」 彼の言葉に信用も信憑性もない。 あるのは、今までの悪事と嘘。 「ありがとう」とは言うが、気持ち悪い。 どす黒いモヤモヤが大きくなる… 私は決断した。 今の浮気相手との証拠を掴んだら殺そうと。 罪が軽くなる様な殺し方を考えないと。

anpontan

12年前

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罪が軽くなる殺し方……? そんな事ができるのだろうか。 「ツミノ カルクナル コロシカタ」 彼のいない(今宵も、オンナの所へ行ってるのだ)部屋で、私は考え続ける。 例えば彼が、ギャンブルなどの浪費家で、仕事もろくにせず、日常的にアタシに暴力をふるい、罵詈雑言を浴びせ、明らかに男が悪い場合でも、殺したら罪が軽くなると言えるのだろうか? 彼はそこまで酷くはない。 浮気の証拠……探偵に頼もうかな?

響 次郎

12年前

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けれど、行動を起こす前に証拠は転がりこんで来た。 それは彼が帰らなかったある夜。明け方、彼からの着信だったから迷いなく出てしまった。すると女の声がこう言ったのだ。 『彼と別れて。私、妊娠したの』 妊…娠…… 嘘か本当か分からない。ただ私の殺意は冷静さを得た気がした。つまり怒りや嫉妬に駆られた殺意でなく、本気の殺意に。 この女に彼を殺させようか… 私は言ってやった。 「あら、私もなのよ」

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電話の向こうで見知らぬ女が固まったのが分かった。 私、とても冷静だわ… 「彼があなたに何て普段言っているのか分からないけど、君が本命だよ子供は君としか作りたくないとかかな?でも、何年も一緒にいる私の子供と、彼はどちらを取るのかな」 この糞野郎!と声が聞こえた。嘘、全部図星だったの? 「私が知っているだけでも、あなたと同じことを言われている子が何人もいるけど。なんなら名前も」 電話は唐突に切れた。

hituzi

12年前

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怒りに身を任せて包丁を手にした私は、彼の部屋に向かった。そこまでは憶えている。その後の記憶が曖昧だ… ドアが開く…そして彼に向かって包丁を…そこで記憶が途切れた。 ここは彼の部屋…? 玄関のドアが開き彼が現れた。誰かと電話で話している。 「大丈夫、正当防衛は成立するだろう。全て予定通りだ。これで邪魔者はいなくなった。」 口元に微笑をたたえた彼が私を見下ろす。 そして…私の体が冷たくなっていく

aprico

12年前

- 完 -